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プーチンの侵略は失敗か? 歴史が証明する「民主主義国は戦争に強い」事実

2023年02月14日 公開
2023年03月30日 更新

原田泰(名古屋商科大学ビジネススクール教授)

原田泰

ロシアのウクライナ侵攻が始まり、間もなくで1年が経つ。世界がロシアの残虐性に非難の目を向ける中、善戦するウクライナ軍に驚きの声もあがっている。一方で、名古屋商科大学ビジネススクール教授の原田泰氏は、そもそも民主主義の国は決して"戦争に弱くない"と語る。その根拠について、民主主義と権威主義の対立の歴史を遡りながら解説する。

※本稿は、原田泰著『プーチンの失敗と民主主義国の強さ』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

アテネ民主派の攻撃に負けた寡頭政治派とスパルタ駐屯軍

ロシアのウクライナ侵攻に際して、そもそも民主主義は自らを守る力があるのかと問う声があったようだが、ウクライナは負けていない。国境の外にロシアを追い払う可能性も見えてきた。民主主義国は戦争に弱い、と一般に思われているが、必ずしも弱くはない。

自由に放任しておけば兵士たちが戦うはずはない、というペルシャの王クセルクセスに対して、スパルタ人デマラトスは、「彼ら(スパルタ兵土)は自由ではあるといえ、法(ノモス)という主君を戴いており、彼らはこの主君の命じるままに行動する」と答えている(ヘロドトス『歴史』下巻69頁、岩波文庫、1972年、原著・紀元前470年頃)。

そしてペルシャ戦争で、スパルタとアテネを中心としたギリシャ連合軍はペルシャ軍を打ち破った。スパルタには王がいたが民会の制約を受け、アテネは民主制であったから、民主主義が絶対王政を打ち破ったと言えないこともない。

もちろん、スパルタは隣国を奴隷化して軍事大国を作っていた国で、これを民主主義国とするのは間違いだが、市民は、戦争をするかしないかについての議論はできた。

戦争は市民全体の生死に関わることだから、戦うか戦わないかは兵士の共同体が決めることとされていた。プーチンの戦争ではもちろん、国民は何ら戦争の選択に関わっていない。

その後、ペロポネソス戦争でスパルタとアテネがギリシャの覇権を争ったときには、民主主義のアテネがスバルタに敗れた。これは民主主義の弱さを示すものだ、ということになるかもしれない。

しかし、政治哲学者のカール・ポパーは、スパルタは本当にはアテネに勝てなかった、という。確かに、アテネは敗北した。敗北後、スパルタ駐屯軍とアテネの寡頭政治派は恐怖政治を行い、多数のアテネ市民を殺した。その数は、過去10年間の戦闘でスパルタ連合軍が殺した数よりも多かったという。

ところが、募頭政治派とスパルタ駐屯軍はアテネ民主派の攻撃を受けて敗北した。スパルタは、アテネの募頭政治派が支配能力を持たないので、彼らを見放し、民主派と講和を結んだ。アテナの民主政治は復活した、という(カール・ポパー『開かれた社会とその敵第1部:プラトンの呪文』188頁、未来社、1980年)。

 

独裁体制の清とロシアに勝った日本

日清戦争、日露戦争において立患君主制の日本は、独裁体制の清とロシアに勝利した。より民主主義的な国が、戦争に勝利したという事例である。少なくとも、日本の知識人はそう主張した。福澤論吉は、日清戦争を「文野」(文明と野蛮)の戦争と、内村鑑三は「義戦」と形容した(坂本一登ほか『岩波講座 日本歴史 第16巻 近現代2』132頁、岩波書店、2014年)。

ちなみに、後途する民主主義の指標「Polity VのPolity2」のスコアでは、1895年と1905年の日清・日露戦争時、清はマイナス6、ロシアはマイナス10、日本は1である(当時のイギリスは8、アメリカは9。マイナス10からプラス10までのスコア)。

アメリカ建国の父ト―マス・ジェファーソン(第3代)もロナルド・レーガン(第40代)も、その大統領就任演説で「自由な人々の意志と道徳的勇気ほど手ごわい武器はない」と述べている (Reiter. D. ,and Stam, A. , Democracies at War, p62, Princeton University Press 2002)。

以下、バージニア大学のアラン・スタム教授とエモリー大学のダン・レイター教授が『ワシントン・ポスト』に寄稿した「なぜ民主主義国家は専制国家よりも戦争に勝つのか」という論文 ('Why democracies win more wars than autocracies," The Washington Post, March 31,2022)に主に依拠して、民主主義の体制と戦争について考えていきたい。

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