2021年11月30日 公開
2022年07月01日 更新
ただ支持、不支持を表明する民主主義ではなく、市民が解決策を出し合う「熟議民主主義」へ。台湾・デジタル担当政務委員オードリー・タンが、同地で着実な成果を上げている新たな民主主義について語る。(取材・写真:栖来ひかり)
※本稿は、Voice編集部編『東アジアが変える未来』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
――(栖来)タンさんは台湾のデジタル担当政務委員をつとめていらっしゃいますが、まずデジタル行政に関連した質問から伺います。台湾にはなぜ多くのシビックハッカー(市民や社会の課題解決のためにサービスを開発するハッカー)がいるのでしょうか。また、政府はどのように彼らと連携をとっているのでしょうか。
【タン】シビックハッカーは台湾に限らず、インターネットのある場所ならば世界中のどこにもいます。彼らに共通するのは「政府が動くのを待ってなんかいられない」こと。力を注ぐ価値のある社会問題に気づけば、解決方法を考えて実行する。
日本でも一般社団法人コード・フォー・ジャパンといったシビックテック(市民自らがテクノロジーを活用して、社会が抱える課題を解決しようとする取り組み)が、災害時にも力を合わせて被災地の要望に応えてきました。人数としても、台湾だけが特段多いわけではありません。
とはいえ、呉展瑋や江明宗(マスクマップや感染例マップを制作したことで知られる台湾の有名なシビックハッカー)など、シビックハッカーが政府や自治体と協力した成功事例が台湾に多いのは確かですね。他の国で政府が活用しようとするのはたいてい、政府に対して特別な情熱をもっている人でしょうから。
呉展緯や江明宗が全国的なシステムをつくったとき、二人は台南にいて、完全なオンラインで市や政府が協力して必要な資料を提供しました。政府が積極的に市民を信頼したからこそ、成しえた例だと思います。
――シビックハッカーと政府の連携では、シビックハッカーが政治を支えるのではなく、政府からお願いするのでしょうか。
【タン】政府がシビックハッカーの行動を支持します。シビックハッカーは政府をまったく当てにしませんが、公共利益の追求という意味では、公務員に求められる基本価値とかなり近いかもしれません。
ただ厳密にいえば、政府だってシビックハッカーのために何かをするわけではありません。たとえばマスク着用人口を75%にまで上げたいだとか、双方の求める価値が同じであったからこそ連携できたのが台湾のマスクアプリであり、実名制マスク販売制度でした。
実聯制(新型コロナ感染拡大防止策として入店時に連絡手段となる情報の登録を求める制度)も、手書きでしか対応できなければ入り口にすぐ人だかりが生じてしまう。その緩和が政府とシビックハッカーの共通の願いであり、実現したのが「ショートメール実名制」なわけです。
私は「合作(中国語で協力の意味)」ではなく「協作」という言葉をよく使います。「協」という字をよくみると、共通価値を表す十字星(偏:へん)が三つの力(旁:つくり)を集めているでしょう。
特定のテーマやある種の特別な価値における共同作業なのです。英語には最も的確な言葉がありますね。たとえ立場が違っても、もともとは敵同士であった人でさえ、一緒に何かをすれば「Collaboration(コラボレーション)」です。
――「協作」を実現するために、縦割り行政と民間コミュニティを横軸でどのように繋ぐのでしょう。
【タン】私も務める「政務委員」という役職は、異なる部門にまたがって調整するのが本来的な役目です。ただし、私だけ大きく違う部分があるとすれば、各部門間の調整のみならず、政策の影響を受けるかもしれないすべての人を巻き込む議論をめざしているところでしょう。
そのため我々は「Join」などネット上のプラットフォーム以外に、「オープンガバメント連絡人」制度を整備しました。100名ほどの人びとが、三級・四級機関(三級は「署・局」、四級は「分署・分局」に当たる)の異なる機関で仕事をしています。
内容はそれぞれの業務単位における調整役で、政務委員が行政院本部で行なっている業務と同様です。そこで議論したい方法や間もなく制定される政策について早めに現場に伝えて意見を聴き、異なる意見を調整する。
事前に内部で練り上げることで、外に出てから問題化することも避けられます。シビックハッカーも含めて政策についての意見を聴くこともあるし、かといってシビックハッカーだけと連絡を取り合うわけでもありません。
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更新:11月21日 00:05