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アメリカは建国前に逆戻りしている...現地で起きている根本的な地殻変動

2025年12月22日 公開

会田弘継(ジャーナリスト/思想史家)

アメリカ

2026年にアメリカは独立250年を迎える。その節目を前に、第2次トランプ政権下では強い権限行使を伴う政治運営が進んでいる。本稿では、その政治状況を建国期の理念と照らしつつ、アメリカ政治と思想に起きている変化を、会田弘継氏が前後編にわたって読み解く。

※本稿は前後編の前編です。『Voice』2026年1月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

繰り返される蛮行

来年、2026年7月にアメリカは独立250年を迎える。独立宣言から9年後、やっと合衆国憲法草案ができあがったとき、新生国家アメリカはどんな国になるのか、と市民に問われた国父の1人ベンジャミン・フランクリンは答えた。

「共和国だ。それを支えていければの話だが」

レーガン大統領の演説起草者として活躍し、いまはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の古参コラムニストであるペギー・ヌーナンは、この言葉を引いて、第2次トランプ政権下で間もなく1年となるアメリカの現状を考察している。

断っておくが、保守派とされるWSJ紙とヌーナンは、トランプ政権とは距離を置いている。「トランプ現象」とは、従来のアメリカの保守政治(レーガン主義)を根底から否定していくような動きだからだ。典型的なのは自由貿易に対する姿勢である。

フランクリンの言葉は後半が肝であり、新生国家を維持するには国民全体の努力が必要だという訴えだ。こんにちのアメリカを考えたとき、含蓄がある。他方、「共和国だ」と言っているのは、憲法草案について市民から「君主制になるのか、共和国になるのか」と聞かれたのに答えた言葉だった。これもまた、こんにちのアメリカにとって意味をもとう。

ヌーナンは250年前の合衆国独立宣言が箇条書きした英国王ジョージ3世の「罪状」と、こんにちのトランプ政治を比べている。興味深い。のちに第3代大統領となるトマス・ジェファソンが起草した独立宣言はジョージ3世の罪状として、

「世界各地とわれわれの通商を遮断した」
「平時において、われわれの内に常備軍を駐留させた」
「われわれの内に内乱を引き起こした」
「外国人帰化諸法の実施を妨害し、移民を促進する諸法の成立を妨げた」

......を挙げた。

こう並べてみると、フランクリン、ジェファソンらアメリカの国父たちが反発し、ついに武器をもって立ち上がった理由のかなりが、いまトランプ大統領が行なっていることである。

関税の大幅引き上げによる一種の「通商遮断」、不法移民対策や治安維持を理由とした主要都市への州兵派遣とその結果の混乱......トランプ大統領は知ってか知らずか、ジョージ3世がアメリカ市民に対して行なった蛮行を、繰り返していることになる。

それに対し、「王様はいらない(No Kings!)」をスローガンにしたデモが全米各地で数百万人規模で起き、トランプはそこにも一部、州兵を派遣して鎮圧しようとした。まるで時計が逆戻りして、「共和国」成立以前の独立戦争時代に戻ったかのような景色である。

 

アメリカの政治と思想の地殻変動

第2次トランプ政権では意図的にこうした強権政治を行なっていることはよく知られている。第1次政権(2017〜2021年)はトランプ自身も予期しなかった2016年大統領選挙勝利の結果として生まれた。そのため、政権づくりの準備は十分でなく、レーガン主義の流れを汲む旧来の保守勢力が政権づくりを担うかたちになった。

対外的には強力で介入主義的であり(ネオコン主導)、内政的には減税や規制緩和による「小さな政府」を求める(ネオリベラル主導)保守勢力である。第1次トランプ政権では、トランプ大統領が自身の周りを固めた旧来保守勢力の閣僚らと確執を起こし、1人ひとり政権から追い出し、大統領に権限を集中させようとするだけで精力を使い果たし終わった面があった。

これに対し、第2次政権は人事をはじめ周到な準備のもとに発足し、就任初日だけで「政府効率化省(DOGE)」の設置をはじめ40近い大統領令を発して、革命に近いような大改変をスタートさせた。

国際開発庁(USAID)の解体と職員解雇、連邦議会が決めていた対外援助や国際機関への拠出金の停止、相次いで一方的に発表された関税引き上げなどは世界的に波紋を広げた。人事においては、今年年末までに連邦政府職員30万人が削減され、第2次トランプ政権が発足した年初に約240万人いた職員は210万人になり、第2次世界大戦後最大の削減だという(8月22日付ニューヨーク・タイムズ紙)。

こうした過激な改変の基礎になったのは、シンクタンク「ヘリテージ財団」のもとに組織された政権移行準備のための組織「プロジェクト2025」が作成した900ページに及ぶ政策提言「指導者らへの委任書」であることは、よく知られている。

トランプが大統領2期目をめざし出馬表明した2022年11月中旬から間もない翌年4月に、早くも公表されていた。大統領候補だった時期のトランプ自身は、この政策文書と自身の政策は無関係だと発言したこともあったが、第2次政権が発足して矢継ぎ早に打ち出された大統領令は、多くがこの政策提言に沿ったものだった。また、「プロジェクト2025」に参加し、政策提言作成に関わった関係者の多くが政権に加わっていることからも、その影響力は明らかだ。

この浩瀚な政策提言の背景にある思想は「単一行政理論(UET)」であることも、広く論じられている。合衆国憲法第2条(合衆国大統領)が冒頭で「執行権は大統領に属する」と定めているのをきわめて広く解釈する考え方で、国際開発庁解体や連邦政府職員の大量解雇、さらには各種通商法などに基づくとして大統領が強引に行なっている関税引き上げの背景には、UETがあるとされる。

法定の権限を超えて連邦準備制度理事会(FRB)議長の解任に言及したり、理事の解任をごり押ししたりしている背景にも、UETの思想が働いている。関税は基本的に連邦議会の権限とされ、FRBや各種独立規制委員会は大統領権限から独立して機能する工夫が凝らされているが、その壁を突き破っていく動きだ。

合衆国憲法による立法・行政・司法の三権分立は議院内閣制よりも厳格であり、大統領の執行権は連邦議会と司法により厳しい制約を受けるが、第2次トランプ政権は一挙に大統領権限の拡大強化を図ろうとしている。これは一種の「戦時体制」だと見ることも可能であろう。

実際、大統領が憲法規定を曲げるように権限を行使した例には、リンカーン、F・D・ルーズベルト、ニクソン、レーガン、息子ブッシュなどが挙げられる。いずれも南北戦争、第2次世界大戦、ベトナム戦争、冷戦末期、9・11テロ後の対テロ戦争といった状況が背景だ。ただ、トランプ政権の場合、そこまで権力集中を図る必然性は何なのか。トランプ自身の権力欲や、第1次政権で自身に制約を課した勢力への「復讐心」が背後にのぞくのは確かである。

ただ、アメリカ国民の半数がそれを是として、トランプを2度まで大統領に押し上げた背景をどう考えるか。あるいは、アメリカ最大都市ニューヨークで「民主社会主義者」を名乗る30代のインド系イスラム教徒ゾーラン・マムダニが市長に選出されたことを、どう考えるか。政界地図の対極的なところで起きている現象だが、ともにこれまでの政治とその背後の思想状況において、アメリカに根本的な地殻変動が起き出していることを示唆していよう。

別の角度から見ると、こうしてアメリカの憲政体制をも揺るがすような動きは、国際秩序の変容とも連動している可能性がある。第2次トランプ政権発足直後の、前述したような大統領令連発のなかに隠れてしまってい
たが、マルコ・ルビオ国務長官は1月30日に保守系ジャーナリストとの単独インタビューで、きわめて重要な発言をしており、国務省のサイトにも掲載されている。

冷戦後にアメリカ一極支配と言われたのは「変則」であって、かつてのような「多極世界、つまり地球上のあちこちにいくつもの大国があった時代に戻るのだ」とルビオは明言した。その多極世界でまず対峙するのは、「中国、それからある程度はロシア」だと言う。この春に筆者が日本招聘の手助けをした、J・D・ヴァンス副大統領とルビオ国務長官の知恵袋であるオレン・キャスは、このルビオの発言に強く注意喚起を促した。

トランプが10月末の米中首脳会談を「G2会談」と呼んだのも、第2次トランプ政権の首脳部のなかに新しい国際秩序観が生まれていることを示唆している。覇権移行期に入ったとも言えよう。それは、一国から他国へではなく、もっと複雑な覇権移行なのかもしれない。だが、覇権移行は一種の戦争状態である。アメリカで起きている憲政体制の変容は、無意識のうちにそれに対応しようとするものだとも考えられる。

そこで思い出すのは、国際秩序の変動期でもあった冷戦初期に、封じ込め政策を打ち出した米外交官ジョージ・ケナンがモスクワから打電した「長文電報」や匿名の「X論文」で主張したことだ。

ケナンは冷戦を「封じ込め」で戦うに際しもっとも重要なことは、アメリカ自身の国内問題を解決することであり、危険なのは相手と戦っているあいだに、自身が相手と同じになってしまうことだ、と警告した。当面、中国を最大のライバルと見るアメリカは、国内問題解決に向かっているのか、それともライバルと似た国家になりはじめているのか、気になる。

 

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