――日本は中国や北朝鮮による軍事的脅威に直面し、米中対立の狭間に立っています。この厳しい局面を生き抜くために、いかなる戦略をとるべきでしょうか。
【アタリ】第一に、日本はアメリカという軍事大国の傘に守られている以上、アメリカが去ったら孤軍奮闘しなければならないことを心しておくべきです。そうなったら、自国の未来は自分たちで守るしかありません。
第二に、中国の申し出に合意する方法を何かしら探る必要があります。われわれフランスが戦後、かつての敵国ドイツと関係を修復したようにです。難しいでしょうが、それ以外に方法はありません。フランスもドイツとのやり取りには苦労しました。
――香港では自由と言論の弾圧が続いていますが、次に心配なのが「民主国」の台湾です。
【アタリ】台湾海峡をめぐり、中国と日本、アメリカが衝突するかもしれません。しかし、前述したように、人間は最終的に自由を求めます。日本がなすべきことは、中国が民主主義に移行するのを粘り強くあと押ししていくことです。中国の中産階級は民主主義を望んでいます。
――他方、日本はアメリカとの関係をどう維持していくべきですか。
【アタリ】そもそもアメリカは、自分たちのやり方を世界中に広めようとする国です。いかなる国も自国を優先するのは当たり前ですが、そのやり方を他国に押し付けてはいけない。
デジタル分野にしてもGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)が世界を圧倒しています。パンデミックでGAFAMはますます強力になり、業績を伸ばしている。アップルとグーグルは、新型コロナの感染者を追跡できるアプリを共同開発しました。
危機に迅速に対応できるパワーは、他社の追随を許しません。GAFAMがあまりにもパワーをもっているので、欧州でもアメリカでも、彼らに対する風当たりはかなり強まっている。しかし、GAFAMはそれを無視しているかのように振る舞い、さらには人びとの個人情報を政治利用しています。
各国はまず、GAFAMのパワーを抑えるために、彼らと渡り合えるソーシャル・メディアやデジタル企業を発展させることから始めなければなりません。我々のほうにも、アメリカの文化や技術、やり方に魅了され、手放しで受け入れてしまっているという反省がある。
自分たちがアメリカとは関係ない、自立した存在であることを自覚しなければなりません。さもなければ、世界中がアメリカの企業に支配されてしまいます。
――日本経済再生のためにアドバイスできることは何でしょうか。
【アタリ】日本は、企業の倒産や自殺がこれ以上増えないように、政府や自治体による支援をもっと増やすべきです。いまはいくら支援してもしすぎることはありません。国の借金を心配するよりも、経済的援助を最優先するべきです。それがなければ、経済の回復が遅れてしまいます。
さらに、これは日本以外にもいえることですが、大打撃を受けている観光業を救わなければいけません。世界のGDPに占める観光業の割合は10%以上もあります。この分野を何としてでも好転させないと、他のセクターの経済も甦りません。世界経済復活のポイントは、観光業の再生にあるのです。
更新:12月04日 00:05