2020年12月15日 公開
写真:吉田和本
課題発表やプレゼン、スピーチなど、現代人は話して言葉を伝える機会にあふれている。乃木坂46の鈴木絢音さんは、「国語の神様」と呼ばれる言語学者・金田一秀穂教授との対談で、人前で話すことは苦手だと語る。そこで参考になるのが指原莉乃さんのスピーチだと、金田一教授は言う。相手に自分の気持ちを伝えるための極意とは。
※本稿は『Voice』2021年1月号より一部抜粋・編集したものです。
【鈴木】金田一先生にうかがいたかったことがあります。テレビや講義でお話ししたりメッセージを伝えたりするなかで、特別に意識されていることはありますか?
私はテレビやライブ、握手会など、お仕事で「話して伝える」ことも多いのですが、昔から人前で喋るのが苦手で緊張してしまうんです。乃木坂の活動を始めてからは少しは慣れてきましたが、以前は誰かと話すときには顔もまともに見られませんでした。
【金田一】鈴木さんと近しい例を挙げると、指原莉乃さん(元AKB48・HKT48)が話す言葉はとても参考になると思います。
私は昔の仕事で、2014年6月に開催された「AKB48選抜総選挙」で各メンバーが行なうスピーチの分析を頼まれたことがあります。そのとき、他の子と比べて図抜けていたのが指原さんでした。
【鈴木】そうなんですね……! たしかに指原さんはお話がとても上手なイメージがあります。どういった部分が他のメンバーの方と違ったのですか?
【金田一】彼女が話す内容は、じつに具体的で素直なんです。スピーチの一部を紹介すると、「こないだ本屋さんで、OL風の女性がお友達と一緒に、AKBが表紙になっている雑誌を見ていた。すると(OL風の)女性が指原を見て『こんなのが1位なんてAKBおかしいんじゃないの』と言っていて、すごく悔しかった。AKBはそんなに簡単な場所じゃない」と語るんです。
アイドルに限らず、「ファンの皆様のおかげです」という言葉がよく使われますよね。でも、それだけでは漠然としていて、本当に気持ちがこもっていたとしてもファンには伝わりにくい。
でも指原さんは、体験した日常の具体的なエピソードを紹介しながら、自分の素直な気持ちを伝えている。当時、彼女のスピーチを聴いた人は「やっぱりアイドルは大変なんだな。この子は頑張っている。応援したい」と感じたでしょうね。私もそう感じてしまいました(笑)。
【鈴木】とても勉強になります。私は「良いことを言おう、当たり障りのない話をしよう」と思ってしまって、話して伝えることを難しく考えてしまっているのかもしれません。エピソードを交えてだったら、少し話しやすいかもしれません。
指原さんは偶然耳にしたのかもしれないけれど、エピソードを探すためだったり、自分の世の中の評価や評判を知ったりするために、家の外に出てみようと思います。意外な発見があって、それを素直に発信できたら、伝えることが気楽にできるようになる気がします。
更新:11月24日 00:05