2020年12月13日 公開
【金田一】そうやって徐々に自分の感情を出していけばいいんです。その次のステップが、「どんな言葉で伝えるか」でしょう。『Voice』に掲載されたインタビュー(2020年11月号「本が私と家族をつないでくれた」)によれば、鈴木さんは書き手の「文体」が気になるそうですね。非常に興味深い視点ですが、どんな文体が好きですか?
【鈴木】惹かれるのは、等身大で飾っていない文章です。そのなかに、ときどき心にぐっと響くような言葉を見つけると、とても嬉しくなるんです。
【金田一】ご自身の文章については、「もっとこうしたい」といった気持ちはあるのですか?
【鈴木】私はいまお話しした憧れている文体とは正反対で、文章すべてを変に綺麗に整えてしまうんです。だから自分の文章はあまり好きではなく、その気持ちが書くことへの苦手意識に繋がっているのかもしれません。
【金田一】いまの世の中には、「飾っている言葉」が溢れていますからね。たとえば新聞に目を通せば、時事的な記事でよく「今後の成り行きが注目される」といった常套句が使われているけれど、私は「(書き手は)本当にそう思っているの?」と、つい勘ぐってしまう。言葉がどこか“嘘っぽい”からです。おそらくは、鈴木さんも私と同じ感覚なんじゃないかな。
【鈴木】そうかもしれません。
【金田一】では、「飾っていない文章」とは何でしょう。私は、真っ先に谷川俊太郎さんの文章が思い浮かびます。たとえば、谷川さんの詩「鳥羽1」のなかには「本当の事を云おうか」という一節がある。
一見すると、特筆することもない、ありふれた軽い言葉のようですが、谷川さんの詩のなかで紡がれていると、なにか世の中が一変する重大なことをこれから言われる気がしてしまう。
私は谷川さん本人に、「どうしてこんな素敵な言葉が書けるんですか?」と聞いたことがあるんです。するとひと言、「自分に正直だから」と仰る。自分に誠実で、嘘をつかず、本当に思っていることを書く。一途にそう心がけているというのです。
谷川さんは誰もが知る日本語の「名人」ですが、私たちも心のどこかに同じ意識をもち続ければ、少しずつ自分の文章が好きになり、書くことに自信がもてるようになるのではないでしょうか。
更新:11月22日 00:05