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新型肺炎だけではない、感染症への危機感が薄い日本人

2020年04月19日 公開
2022年07月08日 更新

福田充(日本大学危機管理学部教授)

「中程度脅威」への対策が不十分だった

古来、人類はさまざまな細菌、ウイルスの感染症と戦ってきた。ペスト、天然痘、コレラ、結核、スペイン風邪など歴史的な「過去」の存在となった感染症から、戦後から現代にかけて流行したAIDS(HIV)、SARS、豚インフルエンザ、MERSなど、日本もグローバリズムによる国際化の流れとともにこうした感染症の被害に遭い、かつそれらを乗り越えてきた。

2009年に世界的に流行した豚インフルエンザの日本国内感染を受けて、日本は2012年に新型インフルエンザ等対策特別措置法を制定し、新型インフルエンザなどの新感染症への対策を強化してきた。

内閣官房では2012年に新型インフルエンザ等対策有識者会議が開催され、感染症などの専門家による対策の検討が始まった。2020年現在も継続されており、筆者も委員を務めている。

また厚生労働省のなかにも新型インフルエンザ対策に関するさまざまな有識者会議、委員会が設置され、多角的な視点から新型インフルエンザ等の新感染症に対する検討や訓練が繰り返されてきた。新型インフルエンザ等の新感染症に対するスキームは確立されてきていたのである。

日本政府はかつて、新型インフルエンザの強毒性に対して死者最大64万人と想定していた。高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の病原性が重度の場合、日本国内の入院患者数が約200万人、死者数が約64万人という想定である。

この死者64万人という数字は、南海トラフ巨大地震の最大死者想定である32万人の倍の数字だ。日本国内の危機のなかで最も大きな死者数を想定した危機こそが、この新型インフルエンザの強毒性、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)だったのである。

この死者64万人という脅威は、「つねに最悪の事態を想定する」危機管理の原則からいえば理にかなったシナリオであったといえる。

反対にいえば、この強毒性の脅威があったからこそ、緊急事態宣言による私権の制限までをも含めた新型インフルエンザ等対策特別措置法は、2012年に民主党政権において成立したのであった。

それ以後、内閣官房や厚生労働省にとっての長年の新感染症リスクの焦点は、真の危機事態といえるこの強毒性のパンデミックにどう対応するかという一点に集中していた。

同時に厚生労働省は、平常時の医療体制において季節性インフルエンザや結核などの感染症とつねに向き合い、マネジメントしている状態である。

こうした季節性インフルエンザによって毎年たくさんの命が失われているが、これはすでに日本国民にとって「アクセプタブル・リスク(受容可能リスク)」となっている。

この究極の危機事態である強毒性新型インフルエンザを100、日常的な季節性インフルエンザを0と考えるとしたら、内閣官房や厚生労働省は0か100かの対応を想定してつねに準備を進めてきた。

だが、今回の新型コロナウイルスのようなその中間にある30や40といった、感染力は強いが毒性は弱いという中程度のリスクである「中程度脅威」に対して想定やシナリオ、対策が十分ではなかったといわざるをえない。

これが今回、政府のいわば内閣官房や厚生労働省の新型コロナウイルス対策が混乱した決定的な原因だと考えられる。

このような「中程度脅威」の新感染症が発生した場合、強毒性新型インフルエンザの対応に寄せて「ハード」管理戦略を構築するのか、季節性インフルエンザの対応に寄せて「ソフト」管理戦略で乗り切るのか、その検討が十分でなかった。

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