Voice » 政治・外交 » 新型コロナ禍が加速させる国家間対立

新型コロナ禍が加速させる国家間対立

2020年04月13日 公開
2022年08月02日 更新

細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)

対立を煽る米中

それはどういうことであろうか。

マイケル・グリーン戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長は、「この10年間、世界各地でポピュリズムと国家主義が浮上しており、その結果、指導者は国際的な協力を図って当面の危機に立ち向かうよりも、他国や他の政党をけなすことに没頭」している現実に警鐘を鳴らす(『中央日報 日本語版』2020年3月13日付)。

地政学的な対立が、新型コロナウイルスをめぐる国際協力を困難にしているのだ。

そのなかでも重要なのは、このようなパンデミック(世界的大流行)により「米国と中国の対立が加速する可能性がある」ことだ。

米中両国において、この新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済的危機を相手の責任に転嫁して、対立を煽っている。

たとえば、世界中の信頼できる科学者たちがそのような可能性を繰り返し明確に否定しているにもかかわらず、中国外務省副報道局長の趙立堅氏は、米軍が新型コロナウイルスを武漢に持ち込んだ可能性に言及し、責任をアメリカに転嫁して中国はむしろ被害者であるという印象を世界に植え付けようとした。

このような悪質なプロパガンダ戦は、科学的な根拠に基づいた対応や、冷静な国際協力をよりいっそう困難にしている。

同様に中国共産党政権は、自由民主主義諸国ではこの感染症拡大を抑制するための効果的な措置がとりにくいことを指摘する。それにより、権威主義体制の優位性を印象付けようとしている。

それに対して、鈴木一人北海道大学教授は、権威主義体制下のイランでも感染拡大防止に失敗しており、他方で民主主義体制下の台湾では優れた政府の対応により感染拡大防止に成功している事例を示して、中国政府のプロパガンダを批判する。

同時に鈴木教授は、トランプ大統領の拙劣な対応を冷静に論難して、ポピュリズム的な性質をもつ「感染を拡大する政治」が見られる現状に警鐘を鳴らす。

そのような、ポピュリズム的な政治が、非合理的な政策に帰結する危険は、文在寅政権下の韓国が、日本に対する「対抗措置」として入国制限を行なったことにも見られる。

2009年に新型インフルエンザの感染が拡大したときには、国際社会はより冷静な協力を実践して、拡散抑制のための措置をとった。

また、同年のリーマンショックに端を発する金融危機の際も、G20サミットを迅速に開催して、必要な国際協力を議論したことで、一定程度の効果を示すことができた。

ところが現在では、アメリカをはじめとする各国でポピュリズムやナショナリズムが強まることで、かつてのような国際協力を望むことは難しくなった。

地政学的な国家間対立が、新型コロナウイルスをめぐる対応にも悪い影響を及ぼし始めたのだ。

感染拡大が進むイタリア、イラン、韓国、さらには国際的な指導力を発揮すべきアメリカなどで、ポピュリズムやナショナリズムに示されるような排外主義的な政治が見られることは、深刻な懸念材料である。

そのような問題を、ブルッキングス研究所のトーマス・ライトと、カート・キャンベル米元国務次官補は『アトランティック・マンスリー』誌に載せた「コロナウイルスの地政学」と題する論文のなかで的確に指摘している。

すなわち、「過去10年ほどで、世界はよりいっそう権威主義的となり、ナショナリズムと排外主義が強まり、単独行動主義的となり、反エスタブリッシュメントで専門家批判へと突き進んでいった」のだ。

国際的な指導力を発揮すべきアメリカと中国が、むしろそのような国家間対立を煽っていることは大きな問題だ。

Voice 購入

2024年12月

Voice 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):880円

関連記事

編集部のおすすめ

対新型コロナ、リアリズムと「新しい地政学」の思考をもて

細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)

吉田茂を超える、芦田均が残したリアリズム(細谷雄一)

細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)

橋下徹「政治家は“気配”で判断すべきときがある」

橋下徹(元大阪府知事/弁護士)