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中国の"近未来型ホテル"で、AIスピーカーに「魚釣島はどこの国?」と聞いた結果

2020年02月27日 公開
2023年04月17日 更新

西谷格(ノンフィクションライター)

 

ロボットアームがつくるカクテル

ロボットアーム

館内を探索しようと外に出ると、説明どおりエレベーターがすでに待機していた。これはよくできている。ちょっとだけ、自分がVIPになったような気分だ。

バーが営業していたので入ってみると、自動車工場にありそうなロボットアームがカウンター内に鎮座し、その真上に天井からさまざまな酒瓶がぶら下がっていた。自動カクテルマシンだという。

男性店員に話を聞くと、

「このマシンはスイス製だけど、カクテルがつくれるように改造したのは、ウチの会社です。中国では上海とココにしかないんですよ」

と胸を張った。マシンの価格は約20万元(約320万円)とのことだが、見渡したところ賑にぎわっている様子はなく、はたして元はとれるのだろうかと少し心配になった。

オーダーはテーブルの上に置かれたQRコードを読み取り、代金はスマホで決済。ソフトドリンクは48元(768円)、アルコールカクテルは68元(1,088円)ほど。私が注文したモヒートは1杯78元(1,248円)で結構高い。中国のちょっと高級なお店は、総じて日本より物価が高いのである。

支払いを終えると、ロボットアームがゆっくりと動き出した。銀色のシェイクボトルを掴むと、天井からぶら下がった酒瓶へと移動。何種類かのアルコールやソーダを注ぎ入れ、シャカシャカと振ってグラスへ注ぐ。まるで工場のようだ。

ハイテク技術に目が釘付けになったが、本物のバーテンダーに比べると動きはぎこちなく、「これをロボットがやる意味はあるのか?」という気もする。

黒服のスタッフが、完成したモヒートにミントを添えて運んできた。味は居酒屋レベルで、あまり本格的な代物とは言えない。ロボットアームではミントを潰つぶす等の細かな作業ができないため、どうしてもリキュールを混ぜただけの味になるのだ。

どこか人工的な味がするのは否いなめない。スクリュードライバーなど"混ぜるだけ"のカクテルを頼めばよかったと悔やんだ。ロボットアームは、テクノロジーの無駄遣いであった。

 

そこかしこに残る旧来の中国センス

翌朝、モーニングを食べに行こうとレストランフロアに行くと、スタッフから「こちらへどうぞ」と案内され、カウンターに置かれたiPad ほどの大きさのカメラ付きモニターの前へ立つよう指示された。

自分の顔がモニターに映されると顔認証が終わり、レストランへの入店を許された。なるほど、普通のホテルでは「朝食券」として紙きれを渡したり、カードキーを見せたりするものだが、ここではそれすらも顔認証で済ませてしまうのだ。

朝食はごく普通の高級ホテルのビュッフェと同じで、特筆すべき点はナシ。一人でなぜかスクランブルエッグだけを大量に食べている青年がいて、ゴーイングマイウェイな中国っぽさを感じたりはした。

また、レストランに併設されているケーキショップではハンドバッグのかたちの大きな砂糖菓子がつくられており、そこにプラダやシャネルのロゴが堂々と使われているのは気になった。ロゴの無断使用といい、高級バッグ型の菓子といい、このへんは旧来の中国センスが濃厚に感じとれた。

ジムルームへ行ってみると、どこにでもあるごく普通のジムだ。イマーシブ・スクリーンとやらはどこだろうと思い、期待して奥に進むと、室内の床に3メートル四方ほどの巨大スクリーンを埋め込んだエリアを発見。が、電源は入っておらず真っ黒いまま。

近くのスタッフにこのスクリーンを使いたいと伝えたところ、「まだ準備中で、使えるようになるのは来月以降」とのことだった。中国社会にありがちな"未完成のまま見切り発車"をしたらしい。残念。

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