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中国の"近未来型ホテル"で、AIスピーカーに「魚釣島はどこの国?」と聞いた結果

2020年02月27日 公開
2024年12月16日 更新

西谷格(ノンフィクションライター)

アリババホテルは本当にすごいのか?

新型コロナウイルスで揺れる中国だが、あるデジタル施設が話題を呼んでいる。

「FlyZooHotel(菲住布渇酒店)」という。IT企業のアリババがつくった近未来型ホテルでだ。その実態は日本ではあまり報じられてこなかった。はたして、このホテルは何がスゴイのだろうか。

そこで、中国滞在歴があり中国語も話せるノンフィクションライターの西
谷格氏が、「アリババホテル」に潜入。“デジタルチャイナ”の現場をレポートする。

*本稿は、『ルポ デジタルチャイナ体験記』 (PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。

 

宿泊せずにはいられないホテル

「FlyZooHotel(菲住布渇酒店)」は、2018年12月に中国でオープンしたデジタル技術を駆使した近未来型ホテルである。リサーチしたところ、このホテルでは「顔認証でチェックインできて、その所要時間は約30秒、いまだかつてない"未来の感覚"を味わえます」と紹介されていた。

加えて、運営母体は中国を代表する巨大IT企業・アリババ。2019年の時価総額は3兆8,000億元(60兆8,000億円)と中国企業トップを誇る。「中国版アマゾン」と呼ばれ、EC消費のすべてを飲み込もうとしている。

そのアリババが作ったホテルというだけあって、期待できそう。ちなみに、中国語名の「菲住布渇」は「非住不可(=宿泊せずにはいられない)」と同音だ。いくらなんでもハードルを上げすぎではないかと思ったが、よほど自信があると見た。

これは潜入せねば、と思い、「アリババホテル」に向かうことにした。

ホテルが位置する浙江省杭州市は、上海から高速鉄道で1時間ほど。だが、杭州市の郊外にあるため、駅から地下鉄やタクシーを乗り継いで1時間ほどかかる辺鄙な場所にある。

途中、タクシー運転手に話を聞くと、「このあたりはもともと何もなかったけど、この10年足らずで不動産価格が一気に跳ね上がった」という。

近年は一段落しているが、中国は急激な経済成長とともに、2008年ごろから不動産価格も高騰。マンションやショッピングモールが次々と建設され、土地成金が大量発生した。道路や鉄道の整備も進み、日本列島改造ならぬ"中国大陸改造"が行なわれたのである。

ホテルはアリババ本社に隣接しているが、現在の巨大な本社が建てられたのは2013年。アリババは相当早い段階から当地に目をつけ、開発を進めたようだ。

ホテルの予約はアリババが運営する旅行予約サイト「Fliggy(飛猪)」もしくはFlyZoo Hotel のアプリからのみ可能で、電話予約は受け付けていない。"将来なくなる職業"の一つとして「コールセンター」が挙げられているが、まさにこのホテルでは電話受付の仕事はすでに不要となっている。

予約時にスタンダードルーム599元(約9,600円)はすでに売り切れていたため、デラックスルーム799元(約1万2,800円)を選択した。価格は時期によって変動するようだ。

筆者が訪れた夏期はやや繁忙期だったが、東京や大阪のビジネスホテルとだいたい同程度の価格帯といえる。

だが、ホテルの周囲は広大な敷地のアリババ本社とショッピングモールがあるくらいで交通不便な田舎町。強引に例えるなら、神奈川と山梨の県境エリアのようなイメージだ。

それで1泊1万円を超えるとなると、かなり強気の価格設定である。近辺の同クラスのホテル相場の2倍近い。これで普通のホテルと変わらなかったら、完全にボッタクリだ。

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