2020年02月27日 公開
2023年04月17日 更新
深夜に到着してロビーに進むと、白地の空間に縦長の巨大な黒板のようなものが浮かんでいた。横幅3~4メートル、縦幅5~6メートルほどある。どうやら巨大スクリーンで、昼間は電源が入るらしい。
スクリーンの右側に目を転じると、これまた不可思議な景色だった。白地の殺風景な無人空間に、空港の自動チェックインマシンのような機械が6台並んでいた。
近づいてタッチパネルに触れると、「身分証をセットしてください」との表示。中国社会は"マイナンバー制度"が徹底しており、国民全員が政府発行のカード型身分証を所持するよう義務づけられている。
外国人の私はそんなものは持っていないので、代わりにパスポートをセット。すると「外国人のお客様はビザ情報の確認が必要です。スタッフを呼び出しますので、しばらくお待ちください」との案内が示された。
マシンの近くには女性スタッフが2名待機しており、談笑をしていた。その1人が私のもとへと近づき、スマートフォンでパスポートを撮影。続いて私の顔にいきなりレンズを向けて、シャッターを切った。手慣れた動作だ。
「これでチェックイン完了です。カギはありませんので、あなたの顔がカギになります」
1~2分ほどで、とてもスムーズにチェックインができた。中国の身分証を持っていれば、人の手を借りることなく、同様の手続きができるのだろう。
手続きをしてくれたスタッフに部屋番号を告げられてエレベーターに乗ると、階を示すボタンの上のほうに手のひらサイズのスクリーンが設置されており、私の顔が映っていた。
カードキーをかざす代わりに、顔をかざすのである。顔認証が済むと、自分の部屋の行先階ボタンを押せるようになった。画面をずっと見続けていると、なぜか自分の顔部分がサルの顔になった。どういう理由なのかは不明だが。
廊下は白を基調としたシンプルな内装で、各部屋の番号はライトで床に照射されている。部屋のドアの前に立つと、ドアに小型カメラが埋め込まれていることに気がついた。
外観はよくある覗のぞき穴とほぼ同じで、周囲がLEDライトで赤く発光していた。不思議そうに見ていたらすぐにライトが緑色に切り替わり、「請進(お入りください)!」という音声が流れた。同時にガチャリという解錠音が聞こえ、ドアが開いた。ちょっと不気味だけど便利である。
室内は1泊1万3,000円近くするだけあって、ぱっと見は日本の高級ホテルとほぼ同じ雰囲気。ベッドは巨大で縦幅2メートル、横幅4メートルほど。テレビの横には、PM2.5の測定器も置かれていた。
室内に入ると同時にテレビ画面の電源が入り、ホテルの紹介ビデオが流れた。要約すると、こんな内容だ。
「私たちは未来からやってきたホテルです。いつでもどこでもスマートフォンでチェックインでき、準備を整えてお待ちしています。ロビーの大型スクリーンの映像は、お客様の手足の動きに応じて変化します。
ドアの前に立てば、自動センサーにより2秒でカギが開きます。室内の"Tモールジニー( 天猫精霊)"は室内のすべてを手伝ってくれます。いろいろと試してみてください。"Tモールジニー"に頼めば、必要なものを持ってきてくれますよ」
流暢な説明が続く。
Tモールジニーとは、アマゾンエコーのようなアリババが開発したAIスピーカーで、喋しやべりかけるとさまざま要求に応えてくれる最新ガジェットだ。「Tモール」はアリババが運営するネットショッピングサイト名で、「ジニー」は「アラジンと魔法のランプ」のランプの精の名前からとったのだろう。
「レストランの食事は、スマートフォンで注文することも可能です。部屋の外に出れば、エレベーターがあなたのフロア階に待機しています。ジムも顔認証で入ることができ、イマーシブ(没入型)・スクリーンが、インストラクターの役割を果たします。当ホテルではお客様のさまざまな習慣を記憶していきますので、ご面倒をおかけすることはありません」
イマーシブは英語で没入・没頭を意味し、利用者が別世界にどっぷりと浸かっている状態を指す。紹介ビデオには、巨大なスクリーンに囲まれた室内で、女性が身体を動かしている姿が映っていた。見るからに最新鋭の設備だ。
更新:11月22日 00:05