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山極壽一「いまこそ“老人力”が必要だ」

2020年02月28日 公開

山極壽一(京都大学総長)

若い世代よりも高齢者のほうがクリエイティブ?

山極壽一

――新しく自由な働き方が広がっていく一方で、フェイストゥフェイスのコミュニケーションが不足する、との指摘もありますが。

【山極】その懸念はもっともです。対面で人と接する機会が減ることは看過すべきではない課題だと考えています。

ゴリラの場合、いつも顔合わせをしているので信頼関係が深く、同調しやすい。集団で一致して行動しやすい構造ができているといってもいい。もし互いの行動に齟齬が生じても、第三者が仲裁してくれるし、関係を修復しやすいのです。

ところが、インターネット空間では自分をいくらでも「つくり変える」ことができます。20代の男性であっても、少女や高齢者のふりができる。

バーチャルな世界では相手の真意がつかみにくく、ときには過剰な期待をもってしまう。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上でしばしば炎上が起こるのは、そのようなボタンの掛け違いが背景の一つではないでしょうか。

やはり人間は本質的に、身体を通した表現、遊び方、気持ちを重用しながら関係をつくるべきなのでしょう。

――世代によって、SNSの利用頻度やコミュニケーションの方法は異なります。その差は、世代間の違いを生むでしょうか。

【山極】クリエイティビティ(創造性)の観点からいうと、SNSを多用する世代よりもじつは高齢者のほうが、それが備わっている気がします。

人と違った発想をするためには、自らの過去を見つめながら、他人と比較して相対化する時間が必要です。自分の好きな食事や服は何なのか、自分はいったい何者なのか、と内省を深める行為です。

そして、その時間がたっぷりあるのが高齢者なのです。それぞれ独自の人生を歩み、個性を磨いてきたはずで、そのことに気付く時間的余裕もある。

現在は均一化の時代であり、SNSの流行に合わせる人が多い。皆が同じような服を着て、音楽を聴き、食事をしている。

そしてハッと気が付くと、自分と相手との差異がわからなくなってしまう。自分の好きな道を進んでいると思いきや、気付けば他人と同じことをしていた、というのが情報化時代の陥穽といえます。

そうした平板な時代にこそ、私は「老人力」を活用すべきだと思う。多様な人生を送ってきた人びとが、自らのアイデンティティに誇りをもち、接し合っている。周囲にそうした高齢者がいれば、その価値観に触れるだけでも、若い世代が受ける刺激は大きいはずです。

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