2020年01月28日 公開
2023年04月17日 更新
どこから取材を進めたら良いのか分からなかったが、こんな時はとにかく適当に手足を動かしてみるしかなかろう。ガイドを募集している会社に履歴書を持参し、説明会兼面接に参加した。
面接官からは「最初は日本人を相手にガイド経験を積んで、それから中国人相手にステップアップしてはどうか」と言われた。業界未経験の私に対するアドバイスとしては至極もっともだったが、それでは一体何カ月かかるか分からない。そんなに待っていられない。
面接は通過したものの、結局その後の研修は辞退。だが、このとき重要なヒントを教えてもらった。
「中国人相手のツアーは、日系の会社はほとんど関わっていないんですよ」
爆買いツアーのガイドに、日本の会社は関わっていない。彼らはほぼ例外なく、中国人が社長をしている中国系の会社が派遣しているのだという。そのことを踏まえてもう一度ネット検索をしてみると、これだ! と思えるサイトを発見した。
「アジアインバウンド観光振興会(AISO)」という名の社団法人で、中国をはじめとするアジアからの観光客に関わる業界団体だ。日系、中国系それぞれの旅行会社が加盟している。インバウンドというのは、海外から日本にやってくる旅行者や旅行プランを指す。
アジアインバウンド観光振興会では、国家資格の「通訳案内士」とは別に、「ツアーガイド」という名の民間資格を制定していた。
「通訳案内士」だけではガイドが足りず、無資格ガイドが横行している。ならば現状に合ったガイド資格を制定しよう、ということになったのだ。
だが、これもよくよくサイトを見てみると、それほど容易ではなさそうだった。旅程管理主任者を取得するべく座学を丸3日間受けたあと、実務研修を1日受け、さらに5日間のインターンを経験し、面接を受けなくてはいけない。
日程はどれも1カ月に1回程度しかなく、すべてを終えて資格を取得するには、半年ほどかかるという。そんなに時間はかけたくなかったが、ほかにアテがないので座学の講座を受けることにした。2016年春のことだった。
座学の講義は、協会と提携している旅行専門学校で行われた。講師は、大手旅行代理店を定年退職したという初老の男性。
予備校のような教室の室内には、20代~50代ぐらいまで、様々な年代の男女20人ほどが座っていた。中国人や韓国人など、外国人も多い。初老の講師は、授業が始まる前に饒舌に語った。
「通訳案内士っていうのがあるけど、これが全っ然、現実に合ってないわけ。試験だけはやたら難しくて合格率は低いんだけど、実際の業務にはほとんど役に立たない重箱の隅を突いた知識問題ばっかり。
現場の実情に合ってないのよ。それで最近はアジアからの旅行客を案内するガイドが慢性的に不足して、無資格の闇ガイドが横行している。これじゃイカンということで、『ツアーガイド』という民間資格が生まれたんです」
外国人観光客に関するガイド業界の問題点は、この短い演説に集約されているようだった。
講義は朝9時~17時。授業内容は、ガイドの法的な位置付けや義務、日本各地の名所や温泉名の紹介など。講義後に簡単な試験があったが、運転免許試験ぐらいの難易度だったので、ちゃんと授業を聞いていれば、ほぼ誰でも受かる内容だった。
更新:11月22日 00:05