2019年11月15日 公開
2022年12月15日 更新
そもそも、「ウェストファリア体制」とは何なのか。
世界史教科書の説明では「ローマ教皇と神聖ローマ皇帝からの主権国家の独立であり、それら主権国家の並立である」、つまり「主権国家体制」であると記述します。
でも、これでは何のことやらわかりません。
これに、「最後の宗教戦争である三十年戦争の時に、ウェストファリア公国(主に現ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州の一部)の二つの都市、ミュンスターとオスナブリュックで講和会議が開かれた。
それぞれの地で結ばれた、ミュンスター講和条約とオスナブリュック講和条約という、1648年に締結された二つの条約を合わせたものがウェストファリア条約である。条約締結後の世界の秩序がウェストファリア体制と呼ばれる」との退屈な説明が付け加えられたりもします。
日本の法学部や文学部の史学科あたりでは、こんな無味乾燥な、退屈きわまりない教え方しかしていませんが、これで何のことかわかれば超能力者でしょう。
しかし、説明が退屈だからといって、遠い世界の話ではありません。現に今、我々はウェストファリア体制の世界に生きているのです。
たとえば、「主権国家の並立体制」です。
現代社会は俗に"テロとの戦いである"といわれ、テロリストという"国"以外の人たちが頻繁に登場します。それでも、国際連合という場(シアター)に、主権国家というアクターが集まっているのが基本です。国際社会の主体は、あくまで主権国家なのです。
そして、主権国家であるならば、どんな大国もどんな小国も対等であると考えるのが主権国家の並立体制であり、ウェストファリア体制なのです。
このウェストファリア体制というのは、たった一人の、人類史に残る天才が考え出しました。フーゴー・グロティウスという人物です。「国際法の父」とも呼ばれます。"無"から"有"を生み出した、真の天才です。
グロティウスは、当時、オランダ(ネーデルラント)という国すらなく、しかも、「主権」とか「国」が存在しない時代に、「国際社会」を考え出しました。
国家がないときに、国家間の関係、すなわち、国際社会を考えたのです。主権国家にも色々な問題がありますが、主権や国家が存在しない時代の世界は、はるかに悲惨でした。そして世界は今もなお、その天才グロティウスの恩恵に与(あずか)っているのです。
更新:11月22日 00:05