写真:吉田和本
ホルムズ海峡など中東地域の安全確保のため、日本政府は独自の自衛隊派遣を検討している。米国を中心とした有志連合への参加も選択肢にあるなか、日本はいかなる道を進むべきか。前統合幕僚長の河野克俊氏と、同志社大学教授で外交・安全保障が専門の村田晃嗣氏が、日本がとるべき安全保障政策について議論する。
※本稿は『Voice』(2019年12月号)河野克俊氏&村田晃嗣氏の「『専守防衛』を再考せよ」より一部抜粋、編集したものです。
【村田】 日韓関係の悪化には、両国に対するアメリカの関与が低下したことも影響しています。かつてのアメリカであれば、自分たちの同盟国である日本と韓国に、もっと早い段階で仲介していました。
同盟国へのマネジメント力が低下したことは、日米韓関係における大きな構造的変化として押さえるべきです。
【河野】 私は、現在のトランプ政権の政策が特異であるという見方はしていません。
アメリカの歴史を辿ると、19世紀のモンロー主義(欧米両大陸の相互不干渉を主張する米国の外交政策の原則)以来、対外介入には消極的でした。
20世紀には二度の大戦を経験したものの、不介入を主張する層はつねに根強く存在していた。
ところが、冷戦期にソ連という強大な敵が出現して拡張主義をとったため、アメリカは一歩も引けない状態になってしまった。
ヨーロッパではNATO(北大西洋条約機構)が対ソ連の最前線に立ち、アジアでは日米同盟と米韓同盟で対峙してきました。ソ連に対抗して世界に介入してきた冷戦時代のほうが、アメリカにとってむしろ特異な状態だったといえます。
それをトランプ大統領は「本来のアメリカ」に戻そうとしている。当面は誰が大統領になっても、「世界の警察官」をやめたアメリカの姿勢は変わらないとみています。
【村田】 トランプ大統領の誕生は、アメリカ社会における変化の結果として生まれたのだと思います。これまではWASP(ホワイト・アングロ-サクソン・プロテスタント)と呼ばれる人びとのなかのエリート層が、世界に対するアメリカの役割を自覚していました。
ところが多様化が進んだ結果、アメリカ国民における白人の割合が減っている。1960年には85%を占めていた白人は、2050年には47%にまで減少するといいます。
アメリカ国内が分断し、アイデンティティ・クライシスに陥るなかで、聞こえのいい「アメリカ・ファースト」を訴えるトランプ大統領が支持されました。
更新:11月24日 00:05