2019年09月18日 公開
2023年02月22日 更新
写真:遠藤宏
日韓関係が「戦後最悪」と言われるほど悪化するなか、韓国は8月22日、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄を決定した。日米韓の連携を揺るがしかねない今回の措置と日本の「勝算」について、東京外国語大学教授で国際政治学者の篠田英朗氏が寄稿。その一部を紹介する。
※本稿は月刊誌『Voice』(2019年10月号)、篠田英朗氏の「国際法の日本vs歴史認識の韓国」より一部抜粋、編集したものです。
韓国は、1人当たりGDP(国内総生産)でほぼ日本と肩を並べる経済大国である。日本の世論が以前よりも強硬だとすれば、それは日韓の実力が拮抗しているためだ。
圧倒的な国力の差があるわけではないので、譲歩を繰り返す解決策は支持されない。「勝ち」をめざすくらいでちょうどよい。
もちろんバランスの取れた「勝ち」をめざさなければならない。犠牲を無視して、相手を負かそうとするのは、「勝ち」ではない。
韓国が勝っているか負けているかは、関係がない。利益計算は総合的に行なわなければならない。長期的な利益の確保は、短期的な損失を正当化しうる。
まずは「勝ち」のイメージを整理し、それから方法論を考えなければならない。
日韓対立を乗り越えて、安全保障環境を整え、経済活動も維持し続けることが、「勝ち」である。日本が勝つためには、冷静な分析を基に、損失を最小限に抑えながら、日本の安全保障と経済活動を安定的に確保し続けなければならない。
おそらくそれは、「インド太平洋」構想の強化によって果たされるだろう。重要なのは、日本がこの機会に、「国際的な法の支配」に対する関与をよりいっそう真剣に行なっていけるかどうかだ。
韓国がGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄を決定した。安全保障分野における共通の利益が日韓の関係維持の基盤だったが、文在寅政権は、この基盤も日韓関係を「歴史認識」の問題として捉える決定を下した。
韓国は、責任は日本にあるという訴えを、アメリカに対しても行なっていくだろう。「ホワイト国」復帰などの措置が、GSOMIA復活の条件になる、と示唆するかもしれない。
日本は、安易な貿易管理体制での妥協は、かえって安全保障面での脆弱性を高めると訴えることになる。
ただアメリカの動き次第では、具体的な貿易管理体制の強化策について協議することくらいは検討しなければならないかもしれない。
そのうえで、長期的な視野に立てば、米韓同盟弱体化の傾向に備えておくことが必要だ。
韓国は、北朝鮮との関係改善に多大な関心をもち、中国の影響力を考慮しながら、日本との関係悪化も辞さない態度を取った。これは米韓同盟にも影響を与えるため、日本は、米韓同盟の漂流に影響されない堅固な日米同盟の構築に努力を払わなければならない。
そうなると、「インド太平洋」戦略に沿ったネットワークを基盤にして、安全保障政策はもちろん、経済活動の活路も見出していく見取り図が、よりいっそう重要になってくる。
日米同盟を、インド太平洋の枠組みのなかでよりいっそう強固に位置付けることが必要だ。日米にとって重要なパートナーとされるのは、オーストラリアとインドである。
加えて、東南アジアにもパートナーシップを広げていく必要があるだろう。そしてシーレーン防衛を中心とする海洋の安全の政策的優先順位を高めたい。
インド太平洋地域のなかで、日米同盟の意義を確固たるものにするためである。
冷戦時代からの伝統的な日本の安全保障政策は、朝鮮半島情勢への対応を主任務とする米軍を日本に駐留させ続けることで、維持されてきた。
朝鮮半島がある限りアメリカは在日米軍を撤退させることができない、という前提で、「非対称」条約である日米安保体制を維持してきた。この前提は、まだ消滅してはいないものの、今日ではだいぶ変化した。
トランプ大統領が、日米同盟体制の「不公平」を述べるのも、時代の変化の反映だ。もともと日本の姿勢には、朝鮮半島情勢を計算し、米軍の日本駐留を安直に自明視しすぎてきた傾向があった。
時代の変化を恨めしく思っているだけでは、取り残される。日韓対立を乗り越える日米同盟体制を、すでに進展しているインド太平洋戦略の見取り図のなかで、強化していくべきだろう。
それが成功したとき、日本は日韓対立を乗り越えた「勝ち」の状態を見出していくことができるはずである。
更新:11月22日 00:05