ニーアル・ファーガソン氏(左)にインタビューする大野和基氏(右)
たび重なる交渉にもかかわらず、なぜ、北方領土交渉が進展しないのか。スタンフォード大学フーヴァー研究所シニアフェローで、世界的に有名な歴史学者であるニーアル・ファーガソン氏は、その理由について、プーチンにとって中国以外の国との関係は、二次的なものにすぎないからだと語る。
取材・構成:大野和基(国際ジャーナリスト)
※本稿は『Voice』(2019年12月号)ニーアル・ファーガソン氏の「米中の冷戦は長期化する」より一部抜粋、編集したものです。
──(大野)安倍首相は、プーチン大統領と北方領土交渉を進展させようとしていますが、プーチンはまったく譲歩しようとしません。これについてどう考えますか。
【ファーガソン】 ロシアは中国と同調しており、プーチンの対アジア政策は、多くの点で中国が最上位にあり、それ以外の国との関係は二次的なものです。
習近平とプーチンは、他のいかなるリーダー同士よりも頻繁に会っているので、彼らの政策は基本的に調整されています。
そのため、日ロ関係でのブレークスルーはないと思います。中国がそれを望まないし、ロシアは中国のいうことに従うからです。
──(大野)それでも安倍首相は、何かできるのではないかという期待を国民に抱かせています。
【ファーガソン】 そのことで安倍首相を責められません。プーチンは、中東のリーダーが向き合うのと同じように、他のリーダーも向き合わないといけない人物です。
トランプがアメリカの大統領としてerratic(常軌を逸した、一貫性のない)であるかぎり、他国の指導者はできるだけオプションをオープンにしておく必要がある。それがプーチンと直接会うことを意味する場合もあります。
現実的にみて、ロシアと中国の間に楔を打ち込むことはとても難しいでしょう。それほどまでにその二国は密接に同調しているのです。
──(大野)アメリカは、「世界の警察官」としての役割をすでに捨てたのでしょうか。
【ファーガソン】 もしそうだとすれば、それはオバマ大統領のときに起こりました。オバマがテレビ演説で「アメリカはもはや『世界の警察官』ではない」と述べたことはよく知られています。
しかし、トランプが次期大統領選で勝利したとして、アメリカの軍事的なコミットメントを本当に減少させようとすると、世界中の悪漢がこの機会に乗じるので、国際情勢はかなり不安定になる。アメリカが再び「世界の警察官」にならざるを得ない状況になるでしょう。
アメリカが「世界の警察官」をやめて海外の米軍を本国に戻し、世界とかかわらないというのは、たんなる夢物語にすぎません。
事実上、アメリカにはその選択肢はないのです。中国がアメリカの代わりをする用意ができている場合はなおさらのことです。
更新:12月27日 00:05