2019年10月24日 公開
2023年01月13日 更新
スタンフォード大学フーバー研究所リサーチフェローで、アジア地域の安全保障が専門のマイケル・オースリン氏は、日本は中国や北朝鮮の脅威を念頭に、自衛隊をもっと増強すべきだ、と唱える。日韓関係が悪化し、日米同盟の将来も懸念されるなか、われわれはいかに自国を守るべきか。知日派の専門家が訴える、日本の生きる道とは。
取材・構成:大野和基(国際ジャーナリスト)
※本稿は『Voice』(2019年11月号)マイケル・オースリン氏の「自衛隊増強で「アジアの終わり」を防げ」より一部抜粋、編集したものです。
――あなたは、日本・韓国・インド、オーストラリアを結ぶ外側の三角形と、インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポールを結ぶ内側の三角形を合わせた協力枠組み「同心三角形」戦略を提唱しています。
アメリカと基本的価値観を共有する国同士の軍事的紐帯で、日米が主導する「インド太平洋」戦略とも親和性が深い。あらためて、同戦略の狙いを教えてください。
【オースリン】 私が提唱している戦略は、同盟を形成するのではなく、コミュニティをつくるものです。
沿海地域や空の安定を維持するべく協力し合う国の強力なコミュニティです。願わくば、地域の問題を解決するための、より強固な政治的まとまりになってほしい。
しかし当然、国によって能力も利益も異なります。アメリカと密接な関係を築く先進国の日本やオーストラリアは、アジアでは広範な利益とビジョンをもっています。人口が多いインドも同様です。
これらの国は他国よりも能力があります。日本は練度の高い軍隊を有し、オーストラリアの軍隊も質が高い。両国はアジアで指導的役割を果たせるほど、外交においてアクティブです。
アメリカはまず日豪と連携し、そのなかに韓国も入ってほしいと思っています。
さらに、日豪韓より国力が小さくても、戦略的位置にあるインドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポールとの連帯も重要です。
小さな国のコミュニティを構築し、大きな国がそこに協力して沿岸防衛や情報共有を進めるべきでしょう。
われわれがいかにしてアジアを安定させられるか、どのように政治的・経済的イニシアティブを共にとることができるか。これらについて検討するリアルなコミュニティをつくるべきです。
――同戦略を進めるうえで懸念されるのは、悪化する日韓関係です。従軍慰安婦や元徴用工をめぐる問題、輸出管理運用見直しから韓国によるGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄など、懸案事項が山積しています。
安全保障上、日韓は連携すべきでしょうが、歴史認識の相違、国際法遵守における観点から、両国は長期的に「信頼あるパートナー」になれるのでしょうか。
【オースリン】 それはいい質問ですね。私もいま日韓のあいだで起きていることを非常に懸念していると同時に、がっかりしています。
私が本を執筆しているときの韓国の大統領は朴槿惠氏でしたが、当時の日韓関係は比較的良好だったと思います。慰安婦問題でも安倍首相と合意に達し、軍事情報共有でも前進しました。
ところが現在の文在寅大統領は、朴槿惠氏とはまったく異なる見方を示しています。文大統領は強力な左派で、安倍首相は保守的です。政治、経済、思想、地域関係いずれにおいても、2人が同意するとは思えません。
これは非常に危惧すべきことで、日韓双方の同盟国であるアメリカにとっても問題が多い。この二国を協力させることができなければ、事態は悪化する一方です。
――日韓関係が改善に向かう見込みはあるでしょうか。
【オースリン】 両国の関係がどこまで悪化するかはわかりませんが、永久に戦い続けることはないと思います。私自身、当然そうなることを望みません。
しかし、韓国側が真剣に外交に取り組んでいる姿はみえにくい。日韓が共通の脅威に直面したときに協力する余地が生まれるかもしれませんが、文大統領は金正恩氏にどんどん近づいています。
文大統領の行動が金正恩氏の考えを変えるとは思いませんが。とはいえ、必ずしも利益が完全に一致しない中国とロシアが独自の手法で協力しているところをみると、日韓も協力できる領域をみつけられるかもしれません。
更新:11月22日 00:05