2019年10月21日 公開
2023年01月13日 更新
米中対立が激化するなか、スタンフォード大学フーバー研究所リサーチフェローで、アジア地域の安全保障が専門のマイケル・オースリン氏は、アジアの戦争リスクは増している、と指摘する。アメリカと中国、二つの大国の「思惑」とは。
取材・構成:大野和基(国際ジャーナリスト)
※本稿は『Voice』(2019年11月号)マイケル・オースリン氏の「自衛隊増強で「アジアの終わり」を防げ」より一部抜粋、編集したものです。
――(大野)あなたは著書 The End of the Asian Century(邦訳『アジアの終わり』)で、アジアが直面している5つのリスクについて指摘しています。
世界の人口の6割、GDP(国内総生産)の4割が集まるアジアで危機が高まることは、世界全体に関わる懸念事項です。アジアで具体的にどのようなリスクが高まっているのか、教えてください。
【オースリン】 5つのリスクとはすなわち、①失敗した経済改革、②人口動態(人口が多すぎる、あるいは少なすぎる)、③政治共同体の欠如、④未完の政治革命、⑤戦争の脅威、です。
これらのリスクの視点から、アジア諸国について研究しました。日本、中国、韓国、インド、インドネシア、ベトナム、すべての国がそれぞれ異なるリスクに当てはまります。
――このリスクを研究し始めたのはいつごろですか?
【オースリン】 リサーチを始めたのは2010年ごろで、本書が出版されたのは2017年です。
――あなたが言うのは、どの国も何らかのリスクに直面しているということですね。
【オースリン】 そうです。たとえば人口動態でいうと、日本は人口減少が激しい一方で、インドは人口が多すぎるという問題があります。それぞれの国でリスクの形が異なります。
経済に関しては、中国の経済モデルはぐらつき始めていて減速していますし、インドネシアのような国はいまだに成長軌道に乗る気配がありません。
――政治面のリスクはどうでしょうか?
【オースリン】 アジア地域全体の問題は、政治腐敗(汚職)が深刻であることです。これも国によって形が異なります。
中国では、政治腐敗により共産党の正統性を損なっています。腐敗が長く続くなかで、習近平氏が権力の座に就くと反腐敗運動を始めました。
しかし彼はそれを政治目的で使ったのです。共産党は民主主義ではない。彼らの頭にあるのは、いかにして市民社会をコントロールしようとするかだけです。
日本では、選挙で投票する人が減少しています。それは現状に満足しているか、無関心であるかのどちらかを意味しますが、民主主義にとってはマイナスです。
一方で韓国では、前大統領の朴槿惠氏が罷免されるまで、100万人の市民が道路でデモを行ないました。韓国の民主主義体制に対して、国民は大いなる不満を抱いていたのです。
縁故資本主義(crony capitalism)や縁故民主主義は、自分たちの声が政治に届いている感覚を国民に与えませんでした。
さらに、ポピュリズムの問題があります。フィリピンのドゥテルテ大統領は過激なポピュリストです。彼は国民に対して残忍な方法を使うと同時に、自国の主権についての疑問を提起して、フィリピンを中国にぐっと近づけました。
これも異なるタイプの政治リスクです。アジア全域にわたり、多くの政治リスクが存在します。
――5つ目のリスクである戦争の脅威は増加しているのでしょうか。
【オースリン】 残念ながら戦争の脅威は増しています。本来われわれの発展モデルは、国が近代化し、互いに貿易を行なって裕福になるにつれ、問題を解決できるというものです。
最も良い例がヨーロッパです。ロシアは当てはまりませんが、中欧、東欧、西欧すべての国が長年にわたって悩んできた問題を解決したのです。
ところがアジアの場合、残念ながら問題は解決されていない。アジアで最も進んだ国である日本だけでなく、もっと小さな国に至るまで、近代化に伴い軍事力を強化してきました。それは互いに信用していないからです。
尖閣諸島や竹島の領土問題、台湾問題、そして朝鮮半島の問題が横たわっています。こうした領土・歴史問題が解決されていないため、アジアはヨーロッパと比べて何10倍もの脅威があるといえるでしょう。
今年7月23日、竹島付近の空域に侵入してきたロシアの爆撃機に対して韓国軍機は威嚇射撃を行ないました。同域では中国の爆撃機も確認され、日本はJASDF(航空自衛隊)の戦闘機をスクランブル(緊急発進)させた。これはアジアの空と海の平和において、非常に危険な状況です。
更新:11月22日 00:05