2019年08月14日 公開
人口激減に直面する日本がとるべき道は何か。デービッド・アトキンソン氏は、国民の生産性を高まるために全国一律の最低賃金引き上げが急務だ、と説く。また韓国が行なった賃上げは極端であり、国内経済を見誤った、と指摘。日本在住30年、ゴールドマン・サックス「伝説のアナリスト」が語る、日本の未来とは。
※本稿は月刊誌『Voice』(2019年9月号)、デービッド・アトキンソン氏の「日本の生きる道は最低賃金引き上げしかない」より一部抜粋・編集したものです。
聞き手:編集部(中西史也)
――7月の参院選では、自民党が最低賃金1000円、立憲民主党が1300円を掲げるなど、与野党問わず賃上げに前向きでした。最低賃金引き上げに対する動きは、日本でも徐々に広がっているように思います。
【アトキンソン】 今年6月21日に発表された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2019」では、全国加重平均が1000円となる賃上げが提起されました。
人口減少社会における経済政策として、最低賃金の引き上げが、ようやく本格的に議論されるようになったことは喜ばしいことです。
ただ、これから人口減少が本格化するので、ここ3年は約3%の引き上げ率に推移している上げ幅を最低でも5%に引き上げ、毎年その水準を維持してほしいと思います。
――ただ、最低賃金の水準が高いほど企業は賃金を引き下げる余地がなくなり、その分失業者が増える、といわれますね。とりわけ影響を受けやすい中小企業では、最低賃金の引き上げに慎重な声も聞かれます。
【アトキンソン】 中小企業を中心とした約125万社が加盟している日本商工会議所は、最低賃金引き上げ反対の筆頭ですね。
同組織は中小企業の代表のようなイメージがあるかもしれませんが、正確には「中小企業の社長」を代弁する団体です。だから経営者にとってコストのかかる賃上げに反対している。
しかしはっきりいって、1000円の最低賃金も払えないような経営者は、会社を経営すべきではないと思っています。労働者にとって有益で生産性も上げられる賃上げを行なわないのは、経営者の保身以外の何物でもない。
仮に日本の最低賃金が1000円になったとしても、国際的にみればまだ低水準です。
先のイギリスの例が証明しているように、最低賃金を上げると失業者が増える、という考えは正しくない。そうした誤った発想の根底には、「売り上げは増やせず、賃金に使える予算も増えない。
よって、賃金が上がると倒産するか、賃金の増加分だけ雇用している人数を減らす必要がある」という思い込みを反映しています。単純すぎるビジネスの基本がわかっていない証拠です。
日本商工会議所が、「最低賃金を引き上げることで倒産が増える」と根拠のない主張を叫んでいるのは悪質な脅しにすぎないのです。
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更新:11月23日 00:05