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米韓を困惑させた「北朝鮮の謎の飛翔体」の正体

2019年09月10日 公開
2023年02月15日 更新

能勢伸之(フジテレビ報道局上席解説委員)

 

「弾道ミサイル」に定義できない飛翔経路

ここで、あらためて、注目されるのは、「弾道ミサイルとは何か」ということ。国連には、明文化した弾道ミサイルの定義がない。

しかし、米露間の重要な軍縮条約であるINF条約(1987年調印)第2章の1、および、新START条約(2010年署名)のプロトコール6.[5]で、「飛翔経路のほとんどで、弾道軌道であるミサイル」と定義されている。つまり、放物線を描いて飛ぶのが弾道ミサイルということだ。

しかし、ロシアの9M723短距離弾道ミサイルは、最大射程500㎞、高度80㎞とされているが、これは、弾道軌道(=放物線)で飛ばした場合で、四枚の動翼や、噴射口の中に突き出し、噴射の向きを変える四枚のベーン、それに、八個の小型噴射装置を使って、発射直後に機動しつつ上昇、どちらの方角に向かうかわかりにくくした上で、敵レーダーを掻い潜るるように低く、標的の方向に飛び、標的の近くで、さらに機動可能。この飛び方は、飛距離が短くなるものの、西側の弾道ミサイル防衛を躱(かわ)そうというものだ。

韓国軍は、イスラエル製のグリーンパイン・レーダー二基を装備し、北朝鮮の弾道ミサイルや巡航ミサイルの飛跡を詳細に把握するといわれている。

5月4日がJN-23の初めての発射で、そこで9M723ミサイルのように、ミサイル防衛を躱すような飛び方をしていたのならば、放物線軌道と簡単には断定できず、上記の条約上の弾道ミサイルの定義に当てはめることは困難と、四日時点の韓国軍は判断したのかもしれない。

ポンペオ米国務長官も、5日の時点では「短距離」との判断は示したが、弾道ミサイルかどうかの判断は示さなかった。ただ、北朝鮮は、9日にも、午後4時29分と同49分ごろ、北西部の平安北道・亀城から飛翔体を一発ずつ、東の方向へ発射。

推定飛翔距離は、約420㎞と約270㎞、高度は約40㎞で、米国防総省は9日、「複数の弾道ミサイル」と分析。岩屋毅防衛相も「弾道ミサイル」と分析した上で「国連安保理決議違反」とコメントした。九日の発射には「放物線軌道」が認められたということだろうか。

北朝鮮が、5月4日の発射で、国連安保理決議違反になることを意図的に避けようとしたのかどうかは不明だ。

断定はできないが、五月四日の発射がINF条約の「弾道ミサイル」の定義と一致しない飛翔経路であったから、韓国や米国が、弾道ミサイルと定義することに逡巡したのだとすると、問題は北朝鮮の弾道ミサイルにとどまらないかもしれない。

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