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直木賞作家・朝井リョウが描く、“対立が削がれた時代”の息苦しさ

2019年07月10日 公開
2019年07月10日 更新

朝井リョウ(小説家)

承認欲求より根深い「生存欲求」

――まさに雄介は、競争や対立という価値観が薄れていくなかで、自らの進路を見失っていきますね。

【朝井】 多様性だよ、と言われるなかで自分を定義付けようとすれば、雄介のように、手っ取り早い方法に走るのは自然な流れだと思います。

雄介を通して描きたかったのは、衣食住の充足だけでは足りない、承認欲求よりももっと根深いところにある「生存欲求」です。

自分で自分を定義付ける楽園めいた地獄のなかで、肉体的ではなく社会的に生きていることを認めてほしいという欲求。

平成に起きた犯罪のなかには、そうした「生存欲求」が引き金となったものがあるのではないか、と考えてしまいます。

秋葉原通り魔事件(2008年6月)や相模原障害者施設殺傷事件(2016年7月)の犯人の供述を見ると、自分より弱い者を否定することによって存在価値を見出す思考を感じます。

「生存欲求」は他者や社会に刃を向くことも大いにありうると思っています。

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