2017年07月07日 公開
2019年11月21日 更新
取材・構成:友清 哲(フリーライター・編集者)
――芥川賞作家となった現在も、テレビ出演や舞台などを精力的にこなされています。とりわけ相方である綾部祐二さんの渡米後は、他のメンバーとコントを披露する機会も多く、小説執筆も含めて創作の占める割合が大きくなっているのでは?
又吉 もともと芸人としてテレビに出るようになる前は、1日に何度も舞台に立っていましたし、毎週のように新ネタを下ろしていましたから、ペースとしてはじつはあまり変わっていないんです。
もちろん、芥川賞を取ったから呼んでもらえる番組や、こうして取材を受けたりする機会は増えましたが、僕自体は何も変わっていないつもりです。
――スタンスとしては、「お笑い芸人が小説を書いた」のではなく、あくまでご自身はお笑い芸人であり小説家でもある、という考え方なのでしょうか。
又吉 基本的にはそうです。芥川賞受賞後も、芸人としての活動に差し障りがあるほどには書いていませんし。
ただ、これは活動に注目が集まっているかどうかの問題だと思うんですよ。たとえば20代のころは、舞台の脚本をよく書いていましたが、もしそれがヒットしていたら、「お笑い芸人? それとも劇作家?」といわれたでしょうし、いまもこうして小説が注目されていなければ、普通に芸人として扱われていたでしょうからね。
実際、ほとんど仕事がなかった時期は、インターネットなどにノーギャラでコラムやエッセイを書かせてもらっていて、毎月10本くらいの締め切りを抱えていたんです。
それに加えてブログもやっていましたから、毎日何かしらの文章を書くのが当たり前の生活でした。いまは幸いにして、その部分にも注目していただいている、ということだと思います。
――2つの立場が、現在は非常にいいバランスで両立できている、と。
又吉 そうですね。こうしてネタ以外の部分で、インプットやアウトプットの機会を数多くいただけることは、どちらの仕事にもプラスでしょう。
これまでも小説を書いた先輩芸人やタレントさんは大勢いましたが、やはり芥川賞というのはそれだけ大きなインパクトがあったのでしょうね。ほんとうにありがたいことです。
――以前、芥川賞受賞後のある番組で、又吉さんが「いまモテなくていつモテんねん」と発言して笑いを取る姿を見て、二足の草鞋を上手に履きこなしている印象を受けました。
又吉 僕としては番組収録でも何でも、その時間が楽しくなればいいなという気持ちだけで、芸人と小説家の配分を何割ずつにするかといったことは、あまり考えていないんです。
小説を書かせてもらえる機会があるなら手を抜くことなく頑張りますし、テレビや舞台に出るときは、ウケるために全力を尽くします。どれだけ小説のオファーをいただいていても、お客さんの前でスベるのは何よりも憂鬱なことですから。
もちろん、芥川賞を取ったことで、劇場に来られるお客さんなど周囲の目は少し変わりました。でも、僕としてはそれも織り込み済みで、その上で笑いを取りに行くしかないと思っています。
(本記事は『Voice』2017年8月号、「著者に聞く<又吉直樹>」を一部抜粋したものです)
更新:11月22日 00:05