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『罪の声』作者が語る、昭和の未解決事件を“フィクション”として描いた理由

2017年08月09日 公開
2024年12月16日 更新

塩田武士(小説家)

塩田武士(小説家)写真:Shu Tokonami

昭和の未解決事件を題材に、事件を追う新聞記者と思わぬ形でそれに関わる仕立て屋を描いた『罪の声』。同作は第7回山田風太郎賞を受賞するなど高く評価され、2020年秋には映画版が公開予定だ。原作者の塩田武士氏に、本作を描いたきっかけや思い、モチーフとなったグリコ森永事件とはどのような事件だったのか等について聞いた。

※本稿は『Voice』2017年9月号、塩田武士氏「著者に聞く」の『罪の声』を一部、抜粋したものです。

聞き手:Voice編集部(中西史也)

 

フィクションだからこそ描ける未解決事件

――本作『罪の声』は、グリコ・森永事件(1984~85年に阪神地区を中心にして起きた一連の食品企業脅迫事件。以下、グリ森事件)をテーマにしています。

「かい人21面相」と名乗る犯行グループは、青酸ソーダ入り菓子をばらまく手口で国民を震撼させましたが、2000年2月にすべての事件について公訴時効が成立しています。なぜ、30年も経った昭和の未解決事件を題材に選んだのでしょうか。

【塩田】 僕は関西で生まれ育ちましたから、小さいころから親にグリ森事件の話を聞かされていました。指名手配犯とされた「キツネ目の男」の似顔絵に強烈な印象を受けたことを覚えています。

大学3年(21歳)のとき、グリ森事件に関するノンフィクションを読んだのですが、この事件が子どもを巻き込んでいることを初めて知りました。

――子どもの声が録音されたテープが犯行声明に使用されていたのですね。

【塩田】 ええ。録音には3人の子どもの声が使われており、いちばん下の子はおそらく自分と同年齢。もしかしたら、どこかですれ違っているかもしれない。

そう思った瞬間、鳥肌が立ちました。いったいその子はどんな人生を送ってきたのか。いま、どうしているのか。

大学入学時、すでに僕は小説家をめざしていたのですが、彼の人生を描いたらすごい作品になるのではないか、そう確信したんです。

――作品のテーマを思い付かれてから、実際に36歳で執筆するまで15年も要したのはなぜですか。

【塩田】 社会経験のない21歳の若造にグリ森事件は書けないとわかっていました。そこで、まずは社会勉強を兼ねて新聞記者になりました。

記者の仕事の傍ら、別のテーマの小説を書き続けて、31歳のときに小説現代長編新人賞を受賞しました。

これでようやくグリ森事件について書けると思って、担当編集者に「アイデア」を話したら、「それはたしかに面白い。ただ、いまの塩田さんの筆力じゃ書けない」と言われました。しかも、「これはうちのネタだからよそでは書かないでください」と釘を刺されてしまって(笑)。

それから8つの作品を世に出しましたが、誰かがこのアイデアに気付いて書いてしまうのではないかと、びくびくしていました。

――その15年のあいだに、塩田さんは結婚されて、娘の父親になりますが、作品への影響は?

【塩田】 娘が生まれてみると、愛しくてたまらない。「子どもという宝物を事件に利用するなんて許せない」と強く思うようになりました。

グリ森事件で犯行による死者は出ていませんが、毒入りのお菓子を子どもが食べて亡くなる可能性は十分にありました。こんな卑劣な事件を埋もれたままにしたくはなかった。

とはいえ、迷宮入りした事件をノンフィクションの手法で書くには無理があります。僕は小説家ですし、またフィクションであるからこそ、犯行に使われた子どもの「未来」を描けるんじゃないかと思ったんです。

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