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「アンチ疲れ」した有権者、なぜ野党は“弱い”のか

2019年06月18日 公開
2024年12月16日 更新

松井孝治(慶應義塾大学総合政策学部教授)

シルバーデモクラシーに陥るジレンマ

2009年の政権交代は、自民党政治に対する国民の反感によるところが大きかったが、当時の民主党は不十分ながらも自民党への対抗軸は打ち出していた。不評もあるが「コンクリートから人へ」というのも、その1つだ。

2009年の総選挙の応援に際して、不要不急のハコモノ建設ではなく、年金をはじめとする社会保障や教育など人間への投資に重点的に資源を振り向けるべきだ、という主張への有権者の反応は好意的だった。

じつは2001年の小泉政権以降、自民党は、公共事業予算を顕著に削減しつつあり、脱「コンクリート」を進めていて、このスローガンはある意味で民主党による自民党へのレッテル貼りだった。

当時の民主党は、反自民という代わりに、古い自民党型「土建政治」の象徴としてコンクリートという言葉をもち出したのだ。

同様に民主党がマニフェストで主張した農業者戸別所得補償制度、高速道路の無償化なども、「自民党がつくり上げた従来の構造、すなわち、農協や道路公団などの中間事業体を通じて資金配分するのではなく、農業従事者や家庭に直接届けるのです」「経済的負担に悩んでいる人たちを、外郭団体経由ではなく、直接支援する発想の転換なのです」と訴えると、当時の有権者から好反応で受け止められた。

いかにも財源の見通しが甘く、また私から見てもバラマキで実現に至らない政策が多かったが、少なくとも2009年の時点で、民主党は既存の自民党の価値観とは明確に異なる価値観を国民に提示していた。

しかし、いまの立憲民主党をはじめとした野党は、自民党と異なる具体的な価値観を示せているだろうか。

2012年に民主党政権が終わり、安倍政権は国土強靭化を掲げ、民主党政権時代に比較すると公共事業予算は多少復活しつつはあるものの、もはや90年代の勢いはなく、じつは財政の主軸は社会保障、教育など、人への資源配分に回っている。いまや人と人の資源配分の取り合いの状態だ。

チルドレンファーストを掲げた2000年代前半の民主党であれば、いまこそ、高齢者中心の人的資源配分ではなく、持続性のある将来のために若い世代への配分に軸足を置いた政策を展開し、自民党とは違う社会保障の概念を再整理できたのではないかと思うが、現在の立憲民主党は必ずしもそうした発信を行なっているようには思えない。

むしろ、若年に支持を広げる自民党のほうが、現時点では若い世代をターゲットとした資源配分に力を入れている。野党支持者の多くは、年配で「反安倍」のリベラル系の人たちである。

かつて既得権益打破を唱えた野党が、高齢世代というコア支持層の既得権益にとらわれてしまい、身動きが取れないように見える。

若い人たちの目には、挑戦者である野党が高齢層の既得権益を守り、不十分ながらも若年世代中心の人的資本の充実に舵を切ろうとしているのは自民党で、野党のほうがシルバーデモクラシーの悪弊に陥っていると受け止められているのだ。

もっとも安倍政権にも弱点はある。将来世代のことを考えると、高齢者の年金支給開始年齢の引き上げなどの抑制策は不可避であるし、国民皆保険は大前提としても、風邪などの軽微な疾病への自己負担の在り方の見直しなど医療保険制度の大幅な見直しは避けられない。

その代わり、高齢単身者の急増と多死社会の到来のなかで、医療・介護にとどまらず、高齢単身者の生活支援や見守りなどを地域社会のなかでどのように行なうか、地域包括ケアの発展型で新たな社会制度をいまのうちに構築することが急務である。

異例の長期政権となっている安倍政権が外交・安全保障面で、現実的に舵取りしていることを評価するにやぶさかではないが、本格的な社会保障改革にも、超高齢社会において必要な共助・互助の枠組みづくりにも、この長期政権は取り組めていない。

この点こそが野党のチャンスである。ところが年金支給年限の見直しといった問題になると、野党は一斉に自民党に批判を加えるのみで、本来野党こそ提起すべき、持続可能な新しい地域互助モデルを検討しているという噂も寡聞にして耳にしない。

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