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「アンチ疲れ」した有権者、なぜ野党は“弱い”のか

2019年06月18日 公開
2019年06月24日 更新

松井孝治(慶應義塾大学総合政策学部教授)

松井孝治写真:吉田和本

野党は反安倍を打ち出しているが、「アンチ疲れ」している国民の心には響いていない。夏の選挙戦を前に野党が支持を得るためには、いま何が必要とされているのか。慶應義塾大学総合政策学部教授で元内閣官房副長官の松井孝治氏が説く。

※本稿は月刊誌『Voice』(2019年7月号)松井孝治氏の「真の野党再生論」より一部抜粋・編集したものです。

 

「アンチ疲れ」が露呈した地方選挙

今年4月に「平成最後」となる統一地方選が行なわれ、日本は令和の御世を迎えた。夏には参議院議員選挙が控えている。安倍政権は、11月20日に桂太郎を抜いて、憲政史上最長在任首相となることも視野に入っている。

一方の野党には、安倍政権を代替するような勢いは見られない。なぜ野党は国民の支持を得られないのか。いかなる対立軸を打ち出すべきなのか。近年の政局を振り返るとともに、ささやかな「野党論」を記してみたいと思う。

4月の北海道知事選は、自民・公明・新党大地推薦の前夕張市長・鈴木直道氏と、野党統一候補の元衆議院議員・石川知裕氏の一騎打ちとなった。

野党は共産党を含めて結集し、中央の対立構造をもち込んで、「反安倍」「反自公」で戦ったが、鈴木氏が当選した。北海道は元来リベラル色が強く、野党勢が善戦するかと思われたが、勝負にならなかった。

大阪では、知事選と市長選のダブル選挙となり、維新の吉村洋文氏と松井一郎氏が当選した。自公に共産まで乗っかり反維新連合ができたが、維新の圧勝だった。

大阪府民・市民が大阪都構想に諸手を挙げて賛成しているかどうかは別として、維新批判だけが目立った自公と比べると、既得権益にメスを入れて身近な問題の改革に取り組んでいる維新のほうが期待できたのだろう。

北海道も大阪も、「反安倍」「反維新」といったアンチの側に票は入らなかった。有権者には「アンチ疲れ」のようなものが起こっているのではないか。

私はいま慶應義塾大学で教鞭を執っているが、学生は否定から入る議論を嫌がる。アンチの議論はしばしば観念的で、若い人たちの共感は得られない。

団塊の世代から見ると、「だから最近の若い連中はダメなんだ。権力を疑え」という話になるが、若い世代は「それよりも逃げ切り世代のあなたたちは何をしてくれるのか」となる。抽象的な批判ではなく、具体的に何をやるのかの提案を政治家に求めているのだ。

2015年の安保法制制定の際に巻き起こった「戦争反対」「反安倍」の運動は、団塊世代など全共闘世代中心の運動で、50歳以下の中堅世代や若者たちの反応は概して薄かったのではないか。

北朝鮮のミサイル発射などの現実的脅威のなかで、反安保を主張しても、若者や中年層はしらけるだけだった。野党は対立軸の立て方が間違っていたのだ。

いまの野党は批判先行で、安倍政権の代わりに「何をやるのか」が提示できず、有権者の心を掴めていない。これが、平成最後の統一地方選挙についての私の見方だ。

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