2018年11月08日 公開
2023年07月12日 更新
聞き手:編集部(中西史也) 写真:大坊崇
日本の政治論争ではしばし、保守かリベラルかというイデオロギーが対立軸になる。しかし橋下氏は、そうした政治スタンスの区分けは無意味と一蹴する。どういうことなのか。いまの野党に必要な「マーケティング政治」について語る。
――著書『政権奪取論』(朝日新書)で橋下さんは、政党の対立軸を打ち出すときに保守とリベラルという色分けは無意味と指摘していますね。なぜでしょうか。
橋下 保守やリベラルといった政治スタンスに固執しているのはインテリ層だけです。国民にとって重要なのは、政策が現実の暮らしに役立つかどうかであり、保守やリベラル論争には見向きもしません。
そもそも保守やリベラルの定義自体が、言っている者が自分の都合のいいように勝手に定義しているだけであり、論争する前提を欠いています。
「リベラル保守」なんて自称するインテリもいて、これこそ保守やリベラルのスタンスを論争することが無意味である証左です。
2016年11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利したのは、従来の保守(共和党)とリベラル(民主党)の対立を超えて、「アメリカ・ファースト」を国民に訴えたからです。
トランプ大統領も僕も「ポピュリスト」と批判されますが、彼ほど「政治マーケティング」を巧みに使う政治家はいない。
メキシコとの国境に壁を建設して、入国管理を厳しくする。アメリカの貿易赤字を解消するために、関税の引き上げを断行する。国民生活に直結する移民・難民問題や通商政策で、オバマ前政権と正反対の道を示したわけです。
日本人には過激に見えるこれらの政策は、オバマ政権に辟易した反オバマの有権者の心を捉えたのです。
――トランプ大統領は民主党と対立していますが、彼はもともと民主党員で、共和党のエスタブリッシュメント(支配階級)からも敬遠されていたという特異な人物といえるかもしれません。
橋下 トランプ氏は大統領就任後もインテリ層からたびたび批判を受けていますが、彼は経営者の視点で政策の「順序」にこだわっているように思えます。
いまアメリカと中国の貿易戦争が緊迫化していますが、トランプ氏は中国に制裁的な関税をかける前に、法人税率を35%から21%に引き下げ、個人所得税も大幅に軽減する大型減税を行ないました。
経済を上向きにする政策を先に進めながら、他方で中国を抑え込むために、経済を冷え込ませるリスクのある関税率の引き上げをやるわけです。
そして中国に貿易戦争を本格的に仕掛けたのは、今年6月12日の米朝首脳会談実現のあとであることに注目すべきです。会談以前のトランプ大統領は、北朝鮮問題で習近平国家主席に北朝鮮への働き掛けをお願いしていた立場です。貿易戦争など仕掛けるわけにはいきません。
ところがトランプ大統領は、アメリカが金正恩委員長と直接コンタクトが取れるようになると態度を変え、中国に貿易戦争を仕掛けます。
インテリたちの多くは、米朝首脳会談は中身のないパフォーマンスだと批判しましたが、アメリカが中国とやり合うためには、絶対に踏んでおかなければならないプロセスだったわけです。
米朝首脳会談を北朝鮮の非核化のプロセスとしか見なかったインテリたちには理解できなかったでしょう。
――そんなトランプ氏が大統領当選後、初めて会談を行なった首脳が安倍首相ですね。
橋下 安倍首相は第1次政権で、自らの思想・信条を前面に押し出したことで批判を浴び、1年も経たないうちに退陣しました。その教訓を第2次政権で活かし、まずは経済に力を入れることで憲政史上最長の政権も視野に入っています。
トランプ大統領と安倍首相は共に国民の感覚に敏感になり、その時の状況を見ながら政策を実行している。僕の言うところのマーケティング政治です。野党は2人の政治手法を批判するだけでなく、学ぶべきところは学ぶべきです。
更新:12月04日 00:05