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元官房副長官・松井孝治が提言、ポスト平成の国会改革論

2018年08月14日 公開
2018年09月12日 更新

松井孝治(慶應義塾大学教授)

写真:吉田和本

 

不毛な「日程政治」から脱却せよ

安倍政権が長期化するなか、政治は「一寸先は闇」で何が起きるかわかりませんけれど、よほどのことがないかぎり安倍三選は動かないと思われます。

安倍政権は外交・安全保障においては着実に成果を上げています。安全保障関連法をはじめ、米国をはじめとする同盟国との情報共有の緊密化を可能とした特定秘密保護法の成立、国家安全保障局の創設などは歴史上、画期的な転換でした。

トランプ政権とのあいだには個別の通商問題が存在するとはいえ、強固な同盟関係を堅持しているし、TPP11や日EU経済連携協定の締結など経済外交でも過去にない成果を上げています。長期政権のメリットを生かして従来の日本外交の弱点を克服していることは事実です。

他方、内政においては長期政権にふさわしい抜本的改革を打ち出せているとはいえません。政権初期にアベノミクスによって景気浮揚が図られたものの、その後の財政や経済構造、社会保障における骨太の改革は進んでいるとは言い難い面があります。

地方創生や一億総活躍社会などリベラル勢力にも理解が得られやすい政策を掲げる半面、国民に負担を求める「苦い薬」を出すことには消極的に映ります。

小泉政権では社会保障費増額削減と医療費の個人負担増がなされ、野田佳彦政権では消費税増税を含む社会保障と税の一体改革関連法案が成立しました。

今後、安倍首相が残りの任期3年で、現在の有権者、とくに高齢層にとって痛みを伴うような改革を提案し、実行の道筋をつけられるかどうかが大きな課題です。現在のままでは内政面では「安倍一強の無駄使い」と謗られても否定できないでしょう。

ポスト平成の政治において、何よりも実現してもらいたいのは国会改革です。一部の守旧派論者が主張するように、「安倍一強」を、各省主導の復活によって是正するなどという考え方は、平成の政治改革に逆行するものです。

最近、自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長を中心とする若手有志議員グループが、首相主導と国会の行政監視機能強化の両立を提言し、超党派で国会改革論議が開始されようとしていることは積極的に評価すべきでしょう。

現在の国会を見ると、相変わらず与野党が審議拒否、強行採決など日程闘争に汲々としている一方、委員会でほとんど質問を受けない大臣が一日中缶詰めになるなどの非効率が目につきます。そうした時間はぜひとも政治的ガバナンスの強化に充てていただきたいものです。

英国では党首討論だけではなく、首相や閣僚に対してどの議員でも質問できるクエスチョンタイムが毎週、必ず用意されています。つねに緊張感をもって政策論議が行なわれ、まさに国会が討論のアリーナとなっているのです。

野党が疑惑を追及したいのであれば、国会で専門の調査スタッフを一定期間雇い、首相や閣僚、官僚なども調査対象とし、調査報告書を取りまとめ、論拠に基づく議論をするというような特別調査会を設置し、行政監視の質的転換を図るべきでしょう。

併せて実質的な通年国会と会期不継続の原則の見直しを実現し、不毛な「日程政治」から脱却すること、党首討論は毎週必ず開催し、各常任委員会は、大臣とは閣僚討論を活発に行なうとともに、法案審議などは副大臣を活用し詳細に条文ごとの審議を行なうことも大切なことです。

与党事前審査の弾力化と党議拘束の部分的緩和を行ない与野党による修正協議も活性化すべきです。こうした国会改革があって初めて、官邸一強の弊害が是正されると思います。

平成の首相主導の仕組みを否定するのではなく、国権の最高機関たる国会がしっかりとした抑止力も果たしうる、統治機構全体を見据えた国会改革が急務であることに、日本の有権者も一刻も早く気付かなければならないでしょう。

(本稿は『Voice』2018年9月号、松井孝治氏の「ポスト平成の国会改革論」を一部抜粋、編集したものです)

著者紹介

松井孝治(まつい・こうじ)

慶應義塾大学教授

1960年、京都市生まれ。東京大学教養学部卒業。83年、通商産業省(現・経済産業省)に入省。94年から内閣副参事官を務め、羽田・村山・橋本の各内閣を支える。96年、大臣官房総務課法令審査委員を経て行政改革会議事務局に出向。2,000年、通商産業省を退官。01年、参議院議員選挙に初当選。内閣官房副長官や民主党筆頭副幹事長などを歴任し、13年夏に政界引退。同年9月より、慶應義塾大学総合政策学部教授。

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