2019年05月23日 公開
2019年05月23日 更新
令和の新しい時代を迎えた日本は、平成の始まりと同じく、国際秩序再編がもたらす戦略的分岐点に立っている。わが国はどう国際社会と関わり、いかなる進路をとるべきなのか――。政策シンクタンクPHP総研代表で研究主幹の金子将史氏が日本の指針を提起する。
※本稿は月刊誌『Voice』(2019年6月号)、金子将史氏の「『新しい現実』と志あるリアリズム」より一部抜粋・編集したものです。
時代の潮目が大きく変わった。多くの人びとがそう感じているのではないだろうか。少し前までは当たり前だと思っていた国際秩序が、蒸発したかのようにそのリアリティを失う一方で、新しい国際秩序はまだその形成過程にある。
こうした時代には、目先の変化を追うばかりではなく、大局を捉えることが肝心である。政策シンクタンクPHP総研は、「PHP新世界秩序研究会」を組織し、現下の国際秩序再編の本質と日本が取るべき対応について考えてきた。
以下ではその成果によりながら、新しい国際秩序がどのようなものになるのかを展望してみたい(詳細は提言報告書「自由主義的国際秩序の危機と再生」を参照)。
まず、冷戦後に米国など先進国で主流であった国際秩序観を確認しておこう。単純化していえばそれは、自由貿易、民主的政治体制、基本的人権、社会の開放性等を重視する自由主義的な国際秩序の優越を前提とする見方である。
自由主義的国際秩序は、ソ連崩壊後唯一の超大国となった米国単極のパワー構造、より広くは日米欧の西側先進国の圧倒的なパワーを背景に、西側を超えて世界大に広がっていくように思われた。
ヒト・モノ・カネ、あるいは情報が国境を越えて行き来するグローバル化が、ロシアや中国のような権威主義国を自由主義的な方向に変化させ、徐々にではあっても自由主義的国際秩序へと統合していくだろう。
少なくとも、中国のような権威主義国家は、自由貿易など自由主義的な現状秩序から受益しており、本格的な挑戦者になる可能性は低いだろう。そのような暗黙の思い込みが存在した。
こうした楽観的な見方はもはや現実味を失っている。権威主義国家、なかでも中国が経済的な成長を背景に政治的にも軍事的にも台頭し、自由民主主義諸国の圧倒的な優位性は崩れている。
ロシアによるクリミア併合、中国の南シナ海等での現状変更活動やAIIBの設立など、権威主義諸国は自由主義的国際秩序に統合されるどころか、それに対してあからさまな挑戦を試みるようになった。
だが、今日国際秩序の危機が感じられているのは、何よりも先進国の内側で現状秩序への異議申し立てが強まっているためである。自由主義的国際秩序の担い手たる欧州や米国では、ポピュリズムが燎原の火のごとく広がり、排外主義や自国第一主義が勢いを増している。
とりわけ、自由民主主義世界のリーダーである米国において米国第一主義を唱えるトランプ政権が誕生したこと、米国と手を携えてグローバル化や市場自由化を牽引してきた英国が国民投票で欧州離脱を決定して欧州統合に痛撃を加えたことが、危機の様相を一気に別次元に高めた。自由主義的国際秩序は文字どおり内憂外患の状態にある。
更新:11月26日 00:05