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日本の経済論争がこんなにも稚拙な理由

2019年02月25日 公開
2022年10月27日 更新

竹中平蔵(東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授)

なぜみな論点を見誤るのか

デフレの要因については近著『平成の教訓』(PHP新書)中で詳述しているが、1990年代半ばから続くデフレの原因を、「グローバル化で人や物の移動が容易となって経済が一体化したため、賃金が安い国に収斂していくから」「IT革命で情報通信関連がすべて値下がりしたから」と説明する人は多かった。

以上の側面はたしかにあるのだが、「日本だけのデフレ」の説明には、なっていない。

藻谷浩介著『デフレの正体―経済は「人口の波」で動く』(光文社新書)は、私の知人が書いたおもしろい本で、大変興味深い内容だと評価している。

ただ、残念ながら、タイトルが間違っている。日本のデフレの背景の一つとして人口減少が挙げられるが、これが「正体」ではない。なぜならば、人口が減っている国は世界で24カ国あり、そのうち日本だけがデフレだからである。 

たとえていえば、経済は、無数の連立方程式から成り立っている。円高のとき国内で輸入品が値下がりするという方程式がある。円高のとき海外で輸出品が値上がりするという方程式もある。なぜ円高になるかを示すまた別の方程式もある。

それぞれの方程式がある局面で成立することと、それらを総合して経済全体がどう動くかは、まったく異なる話なのだ。

ところが、多くの官僚はある特定分野の担当者だから、自分が担当する方程式しか解いたことがなく、無数の連立方程式を解いて全体を理解することができない。多くの学者や研究者もそうで、自分の知っている方程式だけを使って全体の解を得ようとしがちだ。

自分の持っているマニュアルだけで物事を解決しようとするマニュアル主義といってもよい。

平成時代は、「一見もっともらしいが、じつは大間違い」というおかしな政策が、しばしば打ち出された時代でもあった。

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