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日本の経済論争がこんなにも稚拙な理由

2019年02月25日 公開
2022年10月27日 更新

竹中平蔵(東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授)

平成に、世界に大きく遅れをとったのは、「物価」と「人口」が失われたから

日本は名目GDP成長で大きく劣るが、購買力平価で調整した一人当たりGDP成長ではまずまず――この図表1と2が示す状況をもたらした要因は、

(1)日本だけが長いデフレ(物価の持続的な下落)にあった
(2)日本だけが人口の伸びが低かった

の二つと考えられる。

要因(1)から見よう。名目GDPは物価が上昇しなくても、消費の拡大、民間投資の拡大、政府支出の拡大、輸出の拡大などによって増える。以上のような拡大が見られず経済が停滞していても、物価が上昇すれば増える。

そこで、ある年以降、A国とB国の消費や投資などが同じ割合で変化し、物価上昇率だけがA国2%、B国0%という差のままで持続したとすれば、30年後の名目GDPは、A国がB国の1.8倍となる(1.02×1.02××……×1.02と30回かけ算すれば1.81だから)。物価上昇率の差を3%とすれば、A国がB国の2.4倍となる。

図表1はこうした状況を示すもので、デフレを放置してしまったことが、名目GDPの決定的な差として表れている。

要因(2)は、人口の変化である。名目GDPは、人口の増加によっても増える。

すでに人口が減りはじめた日本だが、89年の1億2311万人と18年の1億2443万人を比べれば1.1%ほど増えた。しかし、同じ期間にアメリカの人口は32%と激増した。イギリスは16%近く増え、ドイツも5%増えている。

日本の人口が1億人に達した67〜68年ごろアメリカの人口は2億人で、日本のちょうど倍だった。現在は3億3000万人に近づいている。

アメリカが過去40年間、毎年100万人規模の移民を受け入れていたからで、こんな先進国は、ほかに存在しない。

アメリカという国は、日本が世界第2の経済大国になったころから30年かけて、国土のなかに現在の日本に匹敵する人口の"見えない国"をつくってきた、ともいえる。

移民たちは、おおむね若く、最小限のカネと身のまわりのものだけを持って入国し、住まいを借り、家電製品をそろえ、やがて車や家を買い、子どもを学校にやる。

そもそもが海を渡って人生を切り拓こうと考える、前向きで意欲的な人びとだ。とくに女性は出産率が高く出産期間も長い。

だから、"見えない国"の"見えない人びと"は、戦後日本のような「高度成長」を果たすことになる。

グーグル創業者の一人セルゲイ・ブリンは、6歳だった79年にモスクワから一家で渡米した。

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、4歳のとき母が再婚したが、父のベゾスは15歳で着の身着のまま渡米したキューバ難民だった。

アップル創業者のスティーブ・ジョブズの父は、シリア人である。アメリカのGDPが3倍以上に増えるのは、当然の話なのである。

1979〜2015年に一人っ子政策をとっていた中国でも、人口は24%近く増えている。明示的な移民政策を掲げているオーストラリアでは、46%も増えている。

「デフレの放置」と「人口増の鈍化」(外国人受け入れへの消極姿勢)の二つが、平成時代の日本経済の姿を大きく決定づけ、先進各国との圧倒的な違いを生み出した。

この意味で、平成に失われたものは「物価」と「人口」ということができる。

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