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吉見俊哉 文理の二刀流が未来をつくる

2018年12月29日 公開

吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授)

大学教育を一刀流から二刀流に大転換

そろそろ話を価値創造の話に戻すことにしよう。誤解してほしくないのだが、私は理系的な知の有用性を否定しているわけではまったくない。

理系的な知と文系的な知、もっと正確にいえば、手段的な有用性の知と価値創造的な有用性の知は、お互いに相乗的な関係にある。問題は、この2つをどう組み合わせるのかである。

私がこれまで主張してきたこの問いへの答えは、宮本武蔵だ。つまり、二刀流。

この仕組みも、アメリカの大学ではメジャー・マイナー(主専攻・副専攻)やダブル・メジャーの仕組みとして普及している。簡単にいえば、1人の学生が、2つの専門を学ぶのである。

たとえば、医学部の学生が医療の勉強をしながら、文学部で哲学や倫理学を学ぶことができるとすれば、これは素晴らしい組み合わせではないか。

医学的な知識に加えて、人間とは何かという哲学をもつ医者は、これからの時代にますます重宝されるに違いない。

他にも、コンピュータ科学を主専攻としている学生が、副専攻では法学部の知的財産権を学ぶ。農学部で環境科学を専攻している学生が、文学部で中国の歴史を勉強するなど、有益な組み合わせが考えられる。

いずれの場合も、理系的知を習得しつつ、それらとは別の方法で既存の価値観を疑い、批判する文系的な知を身に付けることで、思考力や想像力が格段に深まることだろう。

繰り返しになるが、日本の大学には世界トップレベルの賢い学生がまだかなりいる。ところが、日本の大学教育の仕組みは問題だらけで彼らの潜在力を伸ばせていない。

これは政府だけでなく、私も含めて日本の大学関係者の責任でもあり、社会全体で取り組むべき課題だ。

その際、「改革」で重要なのは、それがまさに非連続的な改革でなければならないことだ。「双方向的な授業」「シラバスの体系化」「予習・復習の充実」等、どれも大切だが、現在の仕組みに接木をするだけだと、かえって悪い結果を生む。

すでに幹は古くなっており、新しい枝を足してもすぐに枯れるだけだ。教育100年の計をデザインするには、これまで当たり前だったことを否定するところから、まずスタートしなければならない。

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