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門田隆将 井上嘉浩・炎天下のコンテナ監禁――4日間「断水断食」の地獄

2018年12月27日 公開
2018年12月27日 更新

門田隆将(ノンフィクション作家)

どうすれば気力、体力を保てるのか

暗闇の中で、いつになく頭が鮮明になっていた。極限まで体力と水分の「消耗」を避けるしかない。そのためには、どうすればいいか。そして、どうすれば気力、体力を保てるのか。

4日間、普通にこの中にいれば「人間は死ぬ」だろう。しかし、自分は、修行をつづけてきた人間である。酸素の消費量も、水分の浪費も、極限まで抑えることができる。それによって生き延びるしかなかった。嘉浩の頭の中をさまざまなことがぐるぐると駆けまわった。

(いや、考えることが、今、最も気力、体力を消耗するのではないか)

急にそんなことが閃いた。考えること自体がいけないのではないか、と。ひたすら頭をカラにして「寝る」ことにした嘉浩は、しかし、それが不可能であることをすぐに悟った。暑さである。それも猛烈な熱暑だった。死の恐怖が頭をかすめた。

(小便をすれば、それだけ身体から水分がなくなる。可能なかぎり我慢するんだ)

身体を冷やす「呼吸法」や「瞑想」を試すんだ―これまでの修行で得たあらゆる知識と技、肉体で、嘉浩はこれに対抗するしかなかった。やはり灼熱のコンテナの中は、発汗を防ぎようもなかった。

しかし、時間の経過によって暑さに変化があった。昼間はまさに地獄だが、夜は少し温度が下がってきた。

「井上さん」

そんな時、声がした。知り合いのおばさんのシッシャ(出家者)の声である。

「えっ?」

ポータブルトイレの交換だ。毎日、夜中の午前0時に交換するとのことだった。幸いなことに、知り合いのおばさんがそれをやってくれるのだ。内密に、と言って、彼女はこう言った。

「尊師が説法で(嘉浩の)破戒を発表し、全シッシャに尊師通達されたんですよ。それでステージとホーリーネームが剝奪されました」

小さな声で、おばさんは、そう耳打ちしてくれた。

(何も変わっていないのにステージが上がったり、下がったりするのか。それなら、好きにしてくれ)

成就することに必死で、ステージを上げること、あるいはホーリーネームをもらうことに懸命だった自分。あれほど真剣だった嘉浩に、そんな自暴自棄な考えまで浮かんできた。思わず、嘉浩は大声で笑いたくなった。

2日目、小便を我慢できずにしてしまったあと、突然、新実がやって来た。

「丸刈りにするから、外へ出ろ」

そう言われ、太陽がぎらぎらと照りつける外へ引きずり出された。そして、そのままコンテナの外で、バリカンで丸刈りにされた。

嘉浩は無言の新実によって、そのまま耐えがたい暑さのコンテナに戻された。この予想外の動きは、嘉浩に打撃を与えた。急にペースが崩れたのだ。どんな行法も無力で、心身とも疲弊し、心臓の鼓動が速くなったり、遅くなったりした。

(もう限界か……)

死を覚悟してそう呻いた。すると、なぜか、逆にスーッと暑さが引いた。一瞬、息をつく不思議な感覚だった。しかし、

(あと2日、あの日中の暑さを耐えられるのか)

そう思うと、やはり、途方に暮れた。

深夜、コンテナが開き、隣に誰か1人、入れられたことがわかった。

「今から4日間」

そんな声が聞こえた。自分以外にも誰か「破戒」した者がいるらしい。耳を澄ますと、その“隣人”から、すぐに大きな鼾がグーグーと聞こえてきた。

(大胆なやつだ)

そう思っていると、寝言で、ずっと世話になってきた先輩信者であることがわかった。喉はカラカラなのに、思わず笑ってしまった。心強くもあり、笑ったことで不思議と気分がほぐれ、嘉浩は少しペースを取り戻した。

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