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村田晃嗣 日本の明確な意思を示す防衛費の増額を

2018年12月09日 公開
2022年07月08日 更新

村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

在韓米軍問題で問われる日本の覚悟

そして、日本の役割である。

カーターが在韓米軍の撤退を図ったとき、福田赳夫内閣は苦境に立った。米政府内部の文書を見よう。

「日本政府は、米国の撤退決定について、共同決定者の役割を強いられるような方法で"協議 "されたくはない。特に、韓国での特定の兵力水準に焦点をあてたように見える日米協議は、野党に政治的攻撃の機会を与える、と日本政府は信じている。

もし日本政府がわれわれとの協議で、韓国からの米国の撤退に"抵抗"すれば、政府は当該地域での軍事的緊張に貢献している、と野党は非難するであろう。

もし日本政府が米国の提案している撤退を喜んで受け入れれば、米国は実は日本をより積極的な軍事的役割に引き込もうとしている、と野党は論難するかもしれない」(拙著『大統領の挫折――カーター政権の在韓米軍撤退政策』有斐閣、1998年、163ページ)。

また、ウォルター・モンデール副大統領との会談で、福田首相は次のように述べている。

「日本政府は、在韓米地上軍撤退に関する米国の長期的な考えを理解するが、同時に、南北朝鮮の対立に均衡を維持するために米軍が果たしている役割についても注意が向けられるよう希望する」

「朝鮮に関して、日本は米国と韓国との間の二国間問題に干渉する権利はないとの立場を国会その他でとってきた」

「これは国内政治的な目的だけではなく、韓国に自国防衛能力がないと日本が考えているかの印象を与えることを、韓国が望まないからである」(同、165ページ)。

これに対して、モンデール副大統領は、「在韓米軍撤退は米国にとって、…大局的にみれば米韓二国間よりもむしろ米・日両国間により多くの比重のかかった問題」だと喝破し、福田首相に対して「異論を唱える」とまで述べている(同、167ページ)。

日本は在韓米軍の撤退には本当は反対なのだが、国内的にも対外的にも、そう明言できないし、責任を取りたくない、というわけである。なにしろ、日米関係を同盟と呼べなかった時代の話である。

1978年末にまとまった「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)でも、蓋然性の低い日本有事の研究が関の山で、より蓋然性の高い極東有事の研究には着手できなかった。

しかし、いまや日米同盟ははるかに制度化され、強化された。限定的といえども、日本は集団的自衛権を行使することもできる。

しかも、米中新冷戦では、日本は正面、否、最前線に位置している。傍観者的な態度は許されないのである。在韓米軍や米韓同盟で不測の事態が生じないように、日本は朝鮮半島の安全保障に十分に影響力を行使し、関与しなければならない。そのためには、責任の分担が不可欠である。

ほどなく、防衛計画の大綱が改定される。たとえば、中国や北朝鮮が得意とするサイバー攻撃に十分に対処できるような施策が求められよう。また、朝鮮半島有事の際の非戦闘員退避活動(NEO)も練り上げなければならない。

さらに、日本の防衛費は国内総生産(GDP)の1%以下の水準である。トランプ大統領は、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国にGDPの2%を国防費に充てるという公約の実現を、強く迫っている。

いまや西ヨーロッパよりも東アジアの安全保障環境のほうが、はるかに厳しい。いきなり倍増とはいかなくても、日本がいまの防衛費の水準で諸課題を達成するのは不可能である。

防衛費の微増を繰り返すだけでは、強面のトランプ大統領からアメリカ製の武器の購入を迫られるばかりであろう。日本の明確な意思を示すような、防衛費の増額が必要である。

40年近く前にモンデール副大統領が述べたように、在韓米軍問題は大局的には日米関係の問題であり、日本の覚悟の問題でもある。

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