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関西広域連合は地域主権改革の受け皿になりうるか

2010年12月08日 公開
2024年12月16日 更新

宮下量久(政策シンクタンクPHP総研研究員)

宮下量久

 12月1日、関西広域連合が発足しました。この広域連合には、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、徳島県の7府県が加入しています。一方で、奈良県は参加を見送りました。広域連合とは、都道府県や市町村の事務のうち共同処理することが望ましいものを、一元的に行えるようにした制度です。この広域連合は地域主権改革にどのような影響を与えるのでしょうか。

 関西広域連合は国からの権限移譲の受け皿を作るために作られました。関西広域連合の母体は、2007年に設立されていた関西広域機構(以下、広域機構)です。この広域機構は広域連合に参加した7府県のほかに、福井県、三重県、奈良県や関西地域にある政令指定都市、さらに関西の経済団体などから構成されています。広域機構では、観光振興などが共同実施されてきたほか、分権改革について各首長や関西経済界の代表者らの間で意見交換が行なわれてきました。ところが、国から地方への権限移譲は一向に進まないことから、7府県の知事が集まって、広域連合を作ったのです。

 菅内閣は6月に地域主権戦略大綱を閣議決定しています。その中には、出先機関の「原則廃止」などが盛り込まれています。国の出先機関の業務で、500程度が地方移管の対象になっています。8月に行なわれた中央省庁の自己仕分けで、地方移管が可能な事業は、そのうちの1割にとどまりました。その後、中央省庁による再仕分けが行なわれ、11月30日の地域主権戦略会議で、全体の約2割の事業は地方に移管可能という報告がありました。8月の仕分けから、地方移管の対象は増えたものの、およそ8割の事業が国の役割として残ることになり、このことは「原則廃止」という政府の方針と矛盾しています。特に、二重行政の典型例といわれるハローワークは、民主党内からも国の役割として残す主張がなされており、広域連合を含めた地方への権限移譲がなされるか注目が集まっています。

 多くの事業が国に残される理由のひとつに、権限や業務の受け皿が地方側にないことを各省庁とも挙げています。森林管理業務の場合、大規模災害の際に都道府県だけでは早期復旧が困難であることから、森林管理局が事業を実施すべきであると農林水産省は回答しています。

 このような中央省庁の姿勢に対して、国からの権限移譲に備えた受け皿づくりが各地で始まっています。関西広域連合発足の約2ヶ月前に、九州地方知事会は「九州広域行政機構」の設立に合意しています。広域連合と異なる点は、地域の「歯抜け」がないように、区域や所掌事務の法定を行うことが挙げられます。このため立法措置が国で必要になるため、九州広域行政機構の設立には時間を要すると思われます。一方で、広域連合は区域などを法定していないため早期に実現できました。

 広域連合には、法定で設置されていないことによる課題もあります。広域連合は実施事務ごとに府県の構成を変えることができるため、国の出先機関廃止に対する受け皿としてみなされない可能性があるのです。関西広域連合の実施事務には、(1)広域防災、(2)広域観光・文化振興、(3)広域産業振興、(4)広域医療、(5)広域環境保全、(6)資格試験・免許等、(7)広域職員研修があり、各分野で総括する府県を決めています。ところが、7府県すべてが参加するのは、(2)広域観光・文化振興と(4)広域医療のみなのです。各分野に参加する府県が異なることで、国からの権限移譲に違いが生じる恐れもあります。

 広域連合は現行の地方自治法に基づく組織であるため、道州制へそのまま転化することは想定されていません。仮に、広域連合が地域主権改革の受け皿として実績を積み重ねることができなければ、今後は国のかたちを変えるために、道州制を検討せざるを得なくなると思われます。

(2010年12月06日掲載。*無断転載禁止)

宮下量久 宮下量久 (みやした・ともひさ)
PHP総研 政治経済研究センター研究員
 2009年、法政大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。2008年よりPHP総合研究所特別研究員、2009年よりPHP総合研究所研究員。都市計画、社会資本整備、地域連携などを調査研究している。2009年より法政大学経済学部・スポーツ健康学部の兼任教員、2010年より神奈川県相模原市区民会議委員、笹川スポーツ財団研究調査委員会委員も務める。

 

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