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地方自治体と現場の課題に向き合うためのテクノロジー

2019年03月01日 公開

落合陽一(メディアアーテイスト)

落合陽一写真:吉田和本

日本が直面している人口減少と高齢化の問題、そして様々な障害の社会への受容を、いかにしてテック(デジタル・テクノロジー)で解決していくか。2018年11月に開催された産業交流展2018において、メディアアーティストで筑波大学学長補佐・准教授の落合陽一氏が「明日の戦略」を語った。その内容を紹介する。

※本稿は2018年11月14日に開催された産業交流展2018における落合陽一氏の特別講演「日本のイノベーション戦略と中小企業」より一部抜粋・編集したものです
 

テックの活用が必須になる

現在の日本が抱える問題を象徴する事例の1つに、一部の地方自治体はベーシックインカム級の公費投入によって辛うじて成り立っている、という現実があります。

これは私が小泉進次郎さんと共同企画をした「平成最後の夏期講習」というイベントで、安宅和人さん(ヤフー株式会社CSO)に教えていただいたのですが、島根県海士町と東京都目黒区の1人当たりの自治体予算を比較してみると、海士町が259万円であるのに対し、目黒区はわずか34万円。じつに6、7倍の差があります。

日本国憲法は居住の自由を保障していますから、人口密集地帯の東京のほうが行政効率がよいからといって、地方からの移住を強制するわけにはいきません。地方自治体の行政効率を向上させるためにはテックの力を借りるほかないでしょう。

テックによって業務の標準化や自動化、固有の価値の発信やビジネス化を進めれば、改善の余地はかなりあるはずです。

2025年には団塊世代が75歳を迎え後期高齢者になりますが、このままでは増大する医療費に圧迫され、若い人材を育てる教育システムにかける予算や、将来のイノベーションや未来投資のための予算が確保できなくなるかもしれない。これは大きな課題です。

同じく2025年には認知症の患者数が約1200万人に上り、医療や介護に必要な人材が不足する可能性も指摘されています。この分野においても、テックの活用は必須になるといえるでしょう。

すでに海外では、医療分野とテックの融合による課題解決が進んでいます。これも平成最後の夏期講習というイベントで大石佳能子さん(株式会社メディヴァ代表取締役社長)が欧州の事例を紹介してくれました。

たとえば、イギリスでは認知症患者にiPadを配布し、患者同士で使い方を教え合っているそうです。患者たちは認知症を実際に経験している“専門家”として、自ら商品やサービスの開発・改善に貢献する仕組みができている。

他方、日本では認知症患者をインターネットやスマホから遠ざけてはいないでしょうか?

デジタルテクノロジーと高齢者の組み合わせによって起きるイノベーションには期待できると思っています。

その反面、現場ではテレビなどの一方通行的なマスメディアの視聴で長時間を過ごさせる傾向があるように感じています。イギリスのような相互発信可能な状態をつくり出すという発想は少ないのではないでしょうか。

費用対効果の面でも、安価に購入できるタブレットを配布してソフトウェアでの解決を図ったほうが、介護人材を派遣するよりもはるかに効率的でしょう。

また、テックで車椅子などのケアツールにイノベーションを起こせば、後ろから車椅子を押す必要がなくなったり、移動のコストを低くしたりすることにより、高齢者の隣でもっとコミュニケーションに時間を使うことができるようになる。

日本でもタブレットを配布したり、センサー技術などのテックを取り入れることで、介護士の仕事を補完できるモデルを早急に構築すべきなのです。すでにその流れが一部では始まっていますが、何より先に今使えるものを使いながら新しい価値を生み出していく必要性を感じています。

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