2018年06月15日 公開
2018年06月15日 更新
牟田 冒頭の話に戻りますが、会社の事業継承は、従業員のモチベーションにも少なからず影響を与えますね。
矢島 はい。会社を引き継ぐと、「人」と「組織」の両方を変えてしまう後継者がいらっしゃいますが、私は「自分にはできない」と思っています。
当社には、創業時から勤めてくれている古参の社員が何人もいます。彼らのように、長年ホテルを支えてくださった社員にこれまで以上に力を発揮していただかないと成り立たないのは自明でしたので、「人」は変わらずに、「組織」のみが変わっていくことに傾注しました。
牟田 急激に組織を変えると、社内で摩擦が生じることもありますからね。自分より年上の古参社員と意思疎通がうまくできない社長も、非常に多い。
矢島 私が社内の古参社員と話す際は、できるかぎり素直に経営について語り、本音を伝えています。年数を経るにしたがい、お互いに共通言語が増えていき、饒舌に語る必要がなくなっていくのだなと感じています。
先ほどのご著書でも、「(古参社員の)顔を見れば大体何を言いたいかわかるものだ」と述べていますね。退職届を出されるというような局面でも、言葉を交わさずして意図を汲み取れるまでの関係になれたら、後継社長としての1つの段階を踏めるのかなと思っています。
牟田 後継者の皆さんに伝えたいのは、相談ではなく報告をしよう、ということ。自分が組織のトップに就いたからには、古参社員に逐一教えてもらうのではなく、あくまでも自分で決めなくてはなりません。
だからまず自分で決断し、決めたことについて意見をもらう。もちろん、相手が「私はそんなこと聞いていません」ということにならないように、大事な案件は早めに「報告」する。
「報・連・相」はビジネスマンの基本であるにもかかわらず、重職に就いてもまだ徹底が不十分な人が多い。会社で起きるトラブルの9割以上はコミュニケーション不足が原因です。
矢島 私も社長に就任して間もないころは、つい周りの社員に相談してしまいがちでした。でも、あるとき部下から「相談ではなくて指示をください」といわれ、驚くと同時に、その信頼がすごく嬉しかった。相談と報告と指示は、立場と状況に応じて使い分ける武器にほかならない、と痛感しました。
更新:11月22日 00:05