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山本博 酒とたばこは心の安らぎ

2017年08月01日 公開
2017年08月01日 更新

山本博(弁護士・日本ワインを愛する会会長)

喫煙文化を圧殺してはならない

 ――酒場文化に欠かせないアイテムの1つがたばこですが、昨今の喫煙規制についてはいかがですか。日本独自の喫煙文化やルールがあってもいいと思うのですが。

 山本 私は『毎日新聞』の娯楽面を手伝っていた時期があります。あるとき劇作家兼文化評論家の山崎正和さんが、厚生省(当時)の喫煙規制に関する公聴会はおかしい、というコラムを書きました。公聴会に呼ばれる人は、たばこ反対派の人ばかりで、しかも厚生省の役人が初めに法規制ありきで会を仕切っている、と批判するコラムです。すると、全国から抗議の葉書が殺到しました。

 当時の『毎日新聞』は大衆迎合せずに、もう一度同じ山崎さんに論説を書かせました。吸い殻をポイ捨てしたり隣に人がいても街中で吸うのが傲慢無礼なのは確かだから、喫煙者も慎まないといけない。けれどもたばこは長い歴史のある文化の1つで、各国ごとに事情がある。それを一概にやめろというのは文化の圧殺だ。良識で片付けるべき問題であって、法律などで一律に禁じるのはおかしい、という反論でした。その意見に対しては抗議の葉書が1通も来ませんでした。

 2013年に公開されたアニメ映画『風立ちぬ』で、主人公らがたばこを吸うシーンに対して、日本禁煙学会が抗議をしました。しかし監督は、昔の社会状況がそうだったので歴史を変えるわけにはいかない、と無視しました。昭和40年代初めまで日本人男性の喫煙率は80%を超えていました。歴史的事実を抹殺しようとする姿勢は、文化の圧殺そのものです。

 ――東京都議選に向けて、小池百合子都知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」が「子どもを受動喫煙から守る条例」制定を公約にすると発表しました。子どもがいる自宅や自家用車内での喫煙制限を検討する、という内容だそうですが、国会への提出が見送りになった受動喫煙防止法案など個人の自由を狭めるような法規制を行なうべき、という風潮に法律家としてのご意見は。

 山本 個人の趣味嗜好の問題を法律論で決めるというのは、傲慢な話ですね。子どものいる家でのべつまくなしにたばこを吸ったり妊婦が吸うのは問題でしょうけど、それは吸う本人が自己規制すればいいことです。火の付いた危険なたばこで街中の他人に迷惑を掛けてはいけないのは当然ですけど、受動喫煙の被害なるものは科学的にきちんと立証されているわけではありません。さらに酒場の喫煙規制に関しては、喫煙可能、全面禁煙、分煙という選択肢があるのですから、受動喫煙が嫌な人は全面禁煙や分煙の酒場に行けばいい。小さな酒場にまで禁煙を強いるような法規制はすべきではありません。オール・オア・ナッシングでものを考えるのは、お役所仕事そのものです。

 ――テンション社会におけるたばこの効果・効用についてはいかがですか。

 山本 定期的に山、海、川へ行って自然と触れ合うとかが緊張の緩和には効果的でしょうが、誰もがそうそう行けるわけではありません。やはり日常生活のなかで手軽なテンション緩和剤になるのが、お酒とたばこなんです。そしてたばこの効用は何といってもリラックスです。緊張の連続のなかでたばこを吸うことによってホッとしているんです。たばこがおいしいというより、心の安らぎを得ているんですよ。その心の安らぎがテンション解消にいいし、一部の医者には認知症防止に役立つといわれています。

 ――高齢社会で健康寿命を延ばす効果が期待できますね。

 山本 私はヘビースモーカーですが、医師からたばこを注意されるどころか、勧められていますよ。「あなたはたばこは吸うわ酒は飲むわ、好きなことを全部して86歳まで生きたんだから、いまさらそれをやめたところであと何年変わるわけじゃない。だから、いままでどおり暮らしなさい」とね。テンション社会では、とにかくストレスを溜めることがいちばん体に悪いと思います。

 有名な英国のチャーチル首相は、大の愛飲家かつ愛煙家でした(もっとも紙巻きたばこでなく葉巻ですが)。それでも90歳までの長生きをしています。まさに生きた証拠です。

著者紹介

山本 博(やまもと・ひろし )

弁護士・日本ワインを愛する会会長

1931年、横浜市生まれ。早稲田大学大学院法律科修了。弁護士業の傍らワイン、フランス料理関係の著書・訳書を多数著すワインとフランス食文化の第一人者。フランス農事功労章、ザ・フレンチ・フード・スピリット・アワード人文科学賞を受賞。世界ソムリエ・コンクール審査員を長年にわたって務めたほか、フランスINAOの委託により日本におけるワインの不正表示防止の法律実務も担当した。

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