2017年08月01日 公開
2017年08月01日 更新
取材・構成:清水 泰(フリーライター) 写真:服部幸治
――現代生活はテンション(緊張)の連続で、このテンション社会をいかに生き延びるかが問われています。
山本 長い人類の生活のなかで、日本の生活形態が激変したのは、わずか150年くらい前です。明治維新の前までわれわれ日本人は、自然すなわち土と草と森と木材と共生して暮らしていました。それがいまやコンクリートと鉄とガラスの世界に生きさせられています。高級マンションや高層ビルのオフィスなど、いわば「鍵付きの硬い箱」のなかに人が詰め込まれる生活です。
また、ひとたび外へ出れば鉄のレールの上を超スピードで走る電車、疾走する無数の鉄の自動車から、交通信号だけに保護されビクビクしながら歩くことが許され、ちょっとしたミスや油断で生命が失われてしまいます。まさに現代生活は精神の緊張の連続であり、ストレスの積み重ねです。戦国時代より危険な社会といえるでしょう。
さらに、パソコン、コンピュータ、そしてスマホと、機械に人が「使われて」います。生きるための仕事自体が牧歌的な農作業と違って、頭脳労働になりました。仕事で疲弊した頭脳は、寝ている時間を別にすれば難しくないスポーツ、つまり朝のラジオ体操、昼休みや仕事をサボっての速歩運動・ジョギングくらいしか回復の術がない。そんな現代人にとって例外的に残されている数少ない緊張緩和剤が、酒とたばこなんです。
――とくにお酒には、脳の緊張を和らげる以外に、他人との人間関係も和らげる効果もあるそうですね。
山本 あるアメリカの調査団は、アルコールが人間をリラックスさせたり、暴走のつっかい棒になったりしてくれていなかったら、西欧社会は第1次世界大戦あたりで崩壊し、回復の見込みはなくなっていただろうという結論を下したそうです。酒が人間の社会からなくなることはありえないし、もし酒がなくなるようなことがあれば、われわれ人類もまたいなくなってしまうだろう。調査団はかくも厳しく、また楽しい予言をしたようです。
そのアメリカといえば、理想の現実化に挑戦するという無理を実践して大火傷をする若い国で、「禁酒法」(1920年から1933年まで施行)という世紀の暴挙をあえて犯しました。面白いことに、この壮大な実験の結果は、禁酒法施行以前より以後のほうが飲酒量が増えるという皮肉な結果に終わりました。この時代に酒の生産販売で儲けたのが隣国カナダで、国境を通じてアメリカへ売りまくったわけです。今日もカナディアンウィスキー産業が残っているのは、じつは禁酒法のおかげかもしれません。
更新:11月15日 00:05