2017年05月08日 公開
2022年12月28日 更新
※写真はイメージです
2017年3月27日、栃木県那須町のスキー場で「春山安全登山講習」に参加中の栃木県立大田原高校の生徒たちが雪崩に巻き込まれ、男子生徒7人と教諭1人が亡くなりました。
この事故には、マスコミが報じていない登山の教訓がいくつもあります。なおかつ今回、その教訓を学ばなければならないのは生徒というより、引率した大人たちです。
事故後の29日、講習会を主催した栃木県高校体育連盟・登山専門部の専門委員長が会見を開きました。そのやりとりを聞いて唖然としました。正直なところ、「わが子を失った親御さんはこの会見を見て、どれほど悔しい思いだろうか」という憤りを抑えられませんでした。
なぜなら、後述するようにこの雪崩事故は「人災」だからです。それもきわめて初歩的な、登山を知っている人であれば防げたはずのミスによる事故です。
まず、雪崩の危険性について問われた専門委員長は「雪崩が起きやすいところに近寄らない、ということで大丈夫だろうと」と答え、危険な場所とは思わず、予想外の出来事だということを強調しました。
明らかな誤りです。
おまけに専門委員長は会見のなかで「誰の責任でラッセル訓練を決めたか」という問いに対し、「副委員長らは私より登山経験が長い。3人で話し合って決めた」と、他の先生方の名前をわざわざ挙げました。いわんとするところはただ1つ、自分1人のせいではないという責任転嫁です。しかし今回、8人の高校生らが亡くなった場所は「天狗の鼻」と呼ばれる大岩の近く。そこまで登る判断を下したのはいったい誰なのか。
そもそも登山をする者であれば、「大きな岩がある場所は危険」という直観が働かなければなりません。理由を説明すると、外気に晒されつづけた岩の周囲の雪上はキンキンに冷えている。その一方、雪の下に閉じ込められた部分は蒲団の中のように暖かい。寒暖差が生じている場所というのは、亀裂が生じて崩落する恐れがある、ということです。
『産経新聞』の取材に対し、那須山岳救助隊の男性が「雪崩があった斜面は毎年春先に表層雪崩が起きている」「なぜあそこを(訓練場所に)選んだのかわからない」とコメントしていましたが、まったく同感です。
次に、この講習会では悪天候から茶臼岳への登山を中止し、ラッセル(歩行訓練)に切り替えた、という経緯があります。栃木県教育委員会のスポーツ振興課長は、「『登山』ではなく『講習会』なので、雪崩の危険は予期しておらず」と述べています。
ところが「天狗の鼻」の大岩がある地点は尾根上で、茶臼岳の九合目にあたる高さ。ほとんど登山をするのと変わりません。なおかつ、雪山の登山経験者であればひと目で「危ない」と気付く箇所でした。以下、順を追って説明します。【図1】
今回、生徒たちが雪崩に巻き込まれたのは那須温泉ファミリースキー場・第2ゲレンデの上。樹林帯の真ん中です。尾根に近いところには、山の上から林の間を雪が流れ落ちてくる。決して安全とはいえない箇所です。実際に今年初め、山の上の雪崩によって第2ゲレンデに雪が流れ、コースの一部が使用禁止になったことがあります。
ところが生徒らは、その第2ゲレンデから斜面を登っていた。第1ゲレンデであればまだ、歩行訓練の場所として適していたでしょう。おまけに写真を見ると、第2ゲレンデに通じる樹林帯は木がまばらになっている。木が生えていない場所というのは雪崩が定期的に発生し、雪の通り道になっている可能性が高い。密集した樹林帯に比べて、雪崩が起きやすいことは登山の常識として知っておかなければなりません。
ところが、引率された高校生は木の生えていない樹林帯のなかを通って山の尾根まで登り、さらに「天狗の鼻」の大岩へと向かった。これは、山頂をめざす登山と条件としてほぼ同じです。
要するに、今回の講習会では登山を中止して「歩行訓練」に変更した、といいながら、事実上「登山」をしていたことになります。雪上訓練であれば麓で行なえば問題ない。どう考えても安全を考えた判断とはいえません。今回、生徒の犠牲者は「1班」の7人ですが、3、40分遅かったら、後続する2班、3班、4班の生徒も雪崩を受け、さらに死者数が拡大していた可能性すらある。その意味で、今回の事故はまさに人災としか言いようがありません。
更新:11月23日 00:05