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古森義久&アール・キンモンス まだいうか、安倍ファシズム

2017年04月04日 公開
2024年12月16日 更新

古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員),アール・キンモンス(大正大学特任教授)

古森義久

欧米メディアの対日報道は偏向に満ちている

(古森)アール・キンモンスさんは日本史研究(社会史・思想史)が専門の学者です。アメリカの名門ウィスコンシン州立大学で博士課程を修め、同博士号の論文を基に『立身出世の社会史』(TheSelf-MadeManinMeijiJapaneseThought、玉川大学出版部)という本を書きました。さらにイギリスのシェフィールド大学で研究を重ね、1999年からは、日本の大正大学で特任教授を務めています。

たいへん興味深いことに、キンモンスさんは研究テーマとして「欧米のマスコミが日本をどのように報道してきたか」を多年にわたり分析し、「海外マスコミにおける日本のイメージ」という研究報告をまとめています。

私が長年、ワシントンでアメリカの政治や外交を取材して感じるのも、まさに対日報道の在り方に問題がある、という点です。とくに『ニューヨーク・タイムズ』などリベラル系のメディアでは、日本に関する偏見に近いイメージから報道が行なわれており、アカデミズムの領域でも、なぜか日本研究に携わるアメリカ人学者のなかに誤った対日イメージをもつ人が多い。

たとえばアメリカのメディアは、安倍晋三首相に対して「右翼」や「軍国主義者」「歴史修正主義者」など侮蔑的なレッテル表現で再三、批判をぶつけてきました。しかも根拠が不明のままに、です。

これは安倍氏個人のみならず、日本の国際的なイメージを貶めており、とうてい看過できません。キンモンスさんはどのように感じていますか。

(キンモンス)私も、安倍首相を「ファシスト」や「ナショナリスト」などと表現する記事を数多く目にしてきました。最近はトランプ大統領が悪役になっているおかげでだいぶイメージが改善しているようですが(笑)。しかし、おっしゃるように欧米ではいまだに安倍氏をファシズムやナショナリズムの文脈で語っています。

しかしそもそも、政府のリーダーがナショナリストではない国が世界に存在するでしょうか。あったとしたら、そのほうが問題です。

また、アメリカのアカデミズムでいわれる歴史修正主義者(revisionist)とは、むしろ伝統的な歴史観に異を唱えるリベラルな学者を指すことが多い。日本では右翼に対して「おまえは歴史修正主義だ」と批判することが多いですが、アメリカとは言葉の使い方が逆です(笑)。

(古森)ちなみに、日本の左翼とアメリカのリベラルも少し意味合いが異なりますね。アメリカでは、日本の左翼のように共産主義者や社会主義者のことではなく、自由でオープンだけれども政府が大きな役割を果たす社会とか、伝統的な価値観や歴史に批判的な人びとをリベラルと呼んでいる。その意味で、キンモンスさんも決して右翼でも左翼でもないということになりますかね(笑)。

私は、NBR(The National Bureau of Asian Research)というインターネット上の論壇サイトでキンモンスさんのことを知りました。NBRに寄せられる批評の論調も全体としては対日批判が色濃く、私自身もバッシングの対象になったことがあります。しかし、そのなかでもキンモンスさんのコメントは冷静で、「アメリカの日本研究者にもこれほど歪みのない視点をもった人がいるのか」と知って驚いた記憶があります。

(キンモンス)私は長くイギリスに住んでいた経験から、ヨーロッパの常識的な見方からして、安倍氏は中道右派(centerright)である、と思っています。彼のことを右翼(rightwing)と呼ぶのは、日本の街中で軍服を着て大音量で軍歌を流す車に乗っている人、というイメージ。

イギリスやアメリカでrightwingというのは「最小の政府こそ最善である」と考え、「小さな政府」を推進する人たちのことです(たとえばイギリスのサッチャー元首相など)。具体的には、民営化や規制緩和による財政削減をモットーとする政治家などを指します。

仮に安倍首相がアメリカの定義でいうところの「右翼」であれば、彼はただちに日本の国民皆保険制度を廃止して人工妊娠中絶を禁じ、教室での祈禱を法制化して銃の所持を解禁することでしょう。

しかし、これらはどれも安倍首相の政策には当てはまりません。彼を「ファシスト」ということさえあるアメリカのメディアは、たんに安倍氏を批判したいために安直な言葉を持ち出しているにすぎない気がします。

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