2017年04月04日 公開
2022年10月27日 更新
(キンモンス)先ほどお話しした日本に対する欧米メディアの報道の歪みは、政治だけではなく、経済・経営論においても顕著だと私は考えています。出生率の低下やひきこもり、離婚率の上昇といった社会的な現象だけではなく、たとえば日本で企業の不祥事が起きると、イギリスやアメリカのメディアは必ずといってよいほど、それらを「日本人の文化」のせいにする論調があります。
たとえば2010年1月にトヨタ自動車がカローラ、RAV4、カムリなどのリコール(回収・無償修理)をアメリカで発表したとき、英語圏のメディアには「日本人の無責任体質」といった文化・風土に基づく批判的論評が山ほど掲載されました。2017年の現在に至っても、欧米メディアの風潮は基本的に同じです。たとえば東芝の巨額損失が報道されたときも、「頼まれたら断れないという日本文化」が目標達成のために架空の売り上げを計上する粉飾決算の体質を生んだのだ、というふうに。
ところが他方、アメリカの企業で不祥事や不正が発覚しても、その理由として文化という言葉はいっさい出てこない。たとえば2014年、GM(ゼネラル・モーターズ)のリコール隠しが問題になりました。イグニッション(点火)スイッチの不具合によって死者が出ていたにもかかわらず、GMはそれを発表しなかった。しかし、この事件をアメリカ人の文化のせいにする論調は皆無でした。この差はいったいなぜ起きるのでしょうか。
(古森)悪しき日本文化原因論や、はっきりいえば人種差別的な思想に基づくアメリカの「日本人特殊論」「日本異質論」は1980年代からあったように思います。徹夜で働く日本のサラリーマンや、都会の満員電車の光景をテレビで流して揶揄するというのもその一端でした。
(キンモンス)そこでいま、私が慶應義塾大学で行なった講義や研究を基に構想中の本があります。タイトルはAmericansAin’tNoCulture。
(古森)日本の読者に向けて説明すると、「ain’t」という言葉は「amnot」や「aren’t」「isn’t」「hasn’t」「haven’t」(「~がない」「~をもっていない」の意)を全部ひっくるめた省略語で、単数形も複数形も気にせずに使えるスラング的表現のことですね。
(キンモンス)要するに、下品な言葉遣いのことです(笑)。
(古森)キンモンス先生の本のタイトルを直訳すると、「アメリカ人には文化がない」。おまけに「ain’t(=not)」と「no」が重複しているから、文法上も間違っています。二重の意味であえて下級で下品に響くタイトルになっているわけです(笑)。もちろん皮肉を込めているからです。
しかし個別の特殊な事例を日本人全体、日本全体の文化のせいにして日本人を貶めるのは間違いです。アメリカの過激な日本研究者たちが「日本軍の組織的な強制連行による20万人女性の性的奴隷化」といって日本を糾弾した背景にも、日本人は女性の人権を軽視する文化的に遅れた民族だというジェンダーフリー思想に基づく対日差別があります。
こうした誤った見方に対しては、日本国民を代表するという意味で日本の政府機関がまず正式に反論するべきです。日本のメディアも徹底抗戦しなければならない。キンモンスさんのように良識ある学者が世界にいることを励みに、私も微力ながら発信していきたい、と考えています。
更新:11月22日 00:05