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学歴をありがたがるのは誰か? 「同じ大学出身者で心地良いチームを作る」功罪

2026年04月03日 公開

勅使川原真衣(組織開発専門家)

勅使川原真衣 『学歴社会は誰のため』

学歴不要論が盛んに議論される一方で、学歴社会が根強く残るのはなぜでしょうか。それは一体、誰のために存在するのでしょうか。本稿では「学歴社会と心理的安全性の関係」について、書籍『学歴社会は誰のため』より解説します。

※本稿は、勅使川原真衣著『学歴社会は誰のため』(PHP新書)から一部を抜粋・編集したものです。

 

「心理的安全性」は学歴社会と蜜月?

「学歴をありがたがるのは誰か?」―そう問うてくるなかで、忘れてはいけない1つの概念がありました。お気づきでしょうか? 「職務遂行能力」と言うほどでもない、「この人ってだいたい『こういう人』かな」などの、人となりのイメージがある程度つく情報へのニーズです。

仲間になれそうか? と言ってもいいのかもしれません。外資系企業の採用では「カルチャーフィット」という言葉に擬態し、求める資質・能力の1つとしていることもあります。文化的親和性、なんて訳すとそれっぽく聞こえますが、要するに、

親近感
仲間意識
安心感

を求める人間の性と言ってもいいでしょう。

この「カルチャーフィット」ですが、この類の話になると、威力をもつのは意外にも「学歴」のようなブランド、序列的に暗示する情報である点は注意が必要です。自分の出身校を否定する人はそういないでしょうし、自分が通っていた大学やその周辺校であれば、馴染みのない学歴と比べたら「察する」部分も多いからです。

こうした文化的な親和性を気にする慣習ですが、昨今の次のような企業にまつわるパワーワードも後押ししているように思います。

「心理的安全性」

です。これはハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が、グーグル社と共同で行なったプロジェクト、その名も「プロジェクト・アリストテレス」において、「生産性の高いチームは『心理的安全性』が高い」と発表したことから広まった組織の生産性にまつわる重要概念です。

生産性が高い、すなわち「成功」するチームとそうでないチームを分かつのは何か? について、グーグル社の数百のチームをさまざまな変数から分析したと言います。

しかし、当初予想していた学歴という共通項や能力の指標、共通の趣味の有無などは、生産性の違いを有意に説明するものにはならなかったそうです。そして最終的に残ったのが、「心理的安全性」であり、その違いがチームの成否を分かつと結論づけたのでした。

とくに、

「例えば、チーム内でいつもしゃべるのは一人だけで他のメンバーはいつも黙っているチームは失敗するが、ほぼ同じ時間だけ全メンバーが発言するチームは成功するというのです。つまり、心理的安全性の高いチームづくりをすることが、成功のカギといえることがわかってきました。」(Unipos HRコラム、2024年7月16日)

という具体例を新鮮に思った企業組織関係者は少なくないのではないでしょうか。

ただここでポイントになるのは、先の例示からもわかるように、チーム内で意思疎通の場があることが暗黙の前提である点です。議論の土俵や共通理解の前提はある状態の話と、まったくの「はじめまして」の場面とは異なります。

しかし、日本においてはあまりにこの概念だけがセンセーショナルに伝えられ、一大ブームになったがゆえに、初対面や、そもそも情報の非対称性や権力勾配があるような場面でも、

安心感
居場所
安全基地

だと職場を思えることの大切さが強調されすぎたように私は思っています。双方向的なコミュニケーションを取る大前提はさておき、阿吽の呼吸ができることの職場としての心地よさを謳ってしまうと、こんな言い分を誘発しても仕方ないのではないでしょうか?

「何を考えているかが想像もつかないような人と一緒にいることは不安だわ」と。さらには安直ながらわかりやすい共通点と言えば、人生をかけた愛憎劇にもなりかねない「学歴(学校歴を含む)」は、じつに使い勝手のいい属性にならないでしょうか。

「〇〇キャンパスの横にある、あの家系ラーメン屋でさぁ......」

と聞けば盛り上がれる。ないしは

「医学部棟のイタリアンよく行ったよねー」
「△△サー(サークル)はやばいって〜」

でもなんでもいいのですが、日常的な逸話(エピソード)から、互いの距離感があぶり出され、ただの思い出話のはずが、心理的な距離感そのものになる。これもまた学歴・学閥マジックだと思うのです。

しかし世の中には「学歴差別はいけません」というのも周知の事実なので、表立っては言わないのがミソです。なんなら、「心理的安全性」という掛け声のもと、あたかも正当な理由(「組織ダイナミクスに詳しい一流企業の知見」というお墨つき)から、訴求して当然のことのような錯覚に陥る。この巧みさの功罪を頭の片隅に置いておくべきでしょう。

 

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