2026年02月03日 公開

都内の大学院に通う7名が集まり、『Voice』2025年10月号の橋本健二・早稲田大学人間科学学術院教授による論考「新しい階級社会、岩盤保守の転換」を題材にした読書会を開催しました。

HR:本日はお集まりいただきありがとうございます。政策シンクタンクPHP総研でインターンをしているHRです。本日は、『Voice』2025年10月号の橋本健二先生の論考「新しい階級社会、岩盤保守の転換」について、学んでいる分野もバックグラウンドも異なる7人で話し合えればと思います。
皆で率直に議論できればと考えていますが、とはいえ誰の意見が正しいかと対決させるのではなく、「こういう見方もあるんだ」というお互いの気づきにつなげていきたいです。まずは自己紹介とともに記事への感想を話していきましょう。
まずは私から感想を話すと、タイトルにも使われている「新しい階級社会」という言葉が印象的でした。この記事では、近年の非正規労働者の急増に伴い、まとまった一つの階級だった「労働者階級」のなかで大きな格差が生まれたと指摘されています。
そのうえで、上位と下位にそれぞれ位置するのが正規雇用労働者階級と非正規雇用労働者階級で、非正規雇用労働者である「アンダークラス」が主要な階級の一つになった社会を「新しい階級社会」と定義している。そして、「アンダークラス」はいま、じつに困難な状況にあることが強調されています。僕は今年(2026年)の4月から国家公務員として働く予定ですが、こうした階級の変化にも敏感にならなければいけないと痛感しました。
またこの論考では、憲法改正や軍備増強などに加えて排外主義的な主張をする「岩盤保守」の実態について、指摘されています。橋本先生は「岩盤保守」は第2次安倍政権までは自民党政権の主要な支持基盤だったものの、現在はその一部が参政党や日本保守党に投票したと分析されています。
そのうえで「伝統保守」と呼ばれる層は格差拡大に反対して自民党から国民民主党に流れたことで、自民党政権が「岩盤保守」と「伝統保守」のいずれからも見放されたと指摘されている。
個人的にこの分析は面白かったです。行政からの目線で考えると、これまでは「支持基盤の強い自民党の理解を得れば政策が進む」と考えられてきたかもしれませんが、少数与党の時代ではその考え方は通用しない。たとえば「岩盤保守」の層に理解を得られる政策を立案して、理論的な説明をするうえでは、「ポーズ」として何かを示していくことも重要なのかもしれません。
A:私はいま大学院2年生で、ルーマニアにルーツがあります。ここ半年はルーマニア大使館のローカルスタッフとしても働いていて、そちらが本業のようになってあまり勉強に力をいれられていません(苦笑)。
本題に入ると、論考の序盤で紹介されているように、たしかに日本では平成以降に政治改革が行なわれ、2011年には東日本大震災が起きて、また中国や北朝鮮の軍事的脅威を受けて、防災や安全保障の問題がより活発に議論されるようになりました。私自身、政治に興味を持ち始めたのはここ10年くらいのことですが、それにしても安全保障への関心がきっかけでした。
また、論考では日本の有権者を5種類のクラスターに分けて分析していますが、その内容にも納得させられました。私が大学院のゼミでヨーロッパのポピュリズム政党について学んだとき、欧州では排外主義の傾向は所得が低い人にあると教えられました。でもこの記事では、現在の日本で排外主義的な主張をする政党を支持する傾向がある「岩盤保守」と「新自由主義右翼」は、比較的所得も大きいと紹介されている。その違いがなぜ生まれるかと私なりに考えていたのですが、リベラル側にも問題があるのかもしれません。
リベラル政党は以前であれば平等などの観点から所得の問題にも焦点をあてていましたが、次第にLGBTQなどの問題にシフトしていった。これまでリベラル政党に「守られていた」と感じていた人たちが「守られていない」という気持ちを持ちはじめて離れていったことも関係しているのではないでしょうか。
K:私はHRさんと同じく大学院に在籍して3年目です。2025年6月までイギリスに留学していました。イギリスでは、とくにグローバル化による恩恵に与れない人たちが排外主義的な行動に走ると見られています。それに対して、Aさんもいまお話しされましたが、排外主義の傾向が強い日本の「岩盤保守」層の人びとの平均世帯年収が高くなっているのであれば、とても興味深い現象だと感じました。
一方で疑問に思ったのは、政治的な論点に対する意見と投票行動が、実際にどこまでつながっているのかについてです。本論考では、クラスター分析の結果、「こういう意見をもつ人はこういう投票行動をする」と整理されていますが、たとえば「岩盤保守」とカテゴライズされる層のなかで、所得の多い人が排外主義に走る理由や、その背景については、自分なりに問いを立てて考えたものの、なかなかストンと理解できませんでした。
「新自由主義右翼」の人たちは「大卒者比率が66.8%と高い」と分析されていますが、重要なのは、高等教育を受けているのになぜそうした行動に走るのか、ひいてはそうした傾向をどう評価するべきなのか、などの点ではないでしょうか。私たちがそうした議論もせず、もしも「排外主義に陥るのは知識が足りていないからだ」という態度をとってしまえば、さらなる対立が起きてしまうのではないかと懸念しました。
S:ドイツの大学に留学している大学院2年のSです。正直なところ、私は「社会にとって何が正しいのか」について思いを巡らせることはありますが、「それをどうやって達成すべきか」について深く考えたことはありません。こうお話しすると「政治の初心者」と思われるかもしれませんが、温かい目で聞いていただければ嬉しいです。
本論考を読んでまず疑問に感じたのは、いまKさんが指摘されたのと同じくクラスター分析についてです。たとえば「新自由主義右翼」の人たちに憲法改正や日米安全保障に対して賛成する傾向があるとしても、人によって考え方にはグラデーションやバリエーションがあるはずですよね。そう考えると、どこまで一つの名前でまとめられるものだろうかと思いました。
また、著者は自民党が「伝統保守」に戻って格差是正を進めることで、有力政党としての地位を守れるだろうと分析しています。第二次安倍政権から岸田政権にいたるまで、自民党は「新自由主義右翼」に近かったとされますが、それは「一番票が多く取れる」と考えたからでしょう。それなのに今度は「伝統保守」などにターゲットを移したとして、簡単に票は取れるかと言えば、私は疑わしいかなと感じました
HH:大学院1年のHHです。政治について関心はありますが、深い知識があるわけではないので、ハードルを下げて聞いてください(笑)。
大まかな感想になるのですが、私と著者は見えている景色が多少違うんだろう、と感じました。たとえば排外主義について、本論考では中国や韓国、そして在日中国人や在日コリアンを敵視し、移民の流入を嫌悪する姿勢だと記述されています。一方、私が「排外主義」という言葉から真っ先に思い浮かべたのは、クルド人の問題が話題になっているように、東アジア系ではない方々全般を忌避する考え方や行動でした。
また、Sさんがいま触れたように、自民党が生き残るためには「伝統保守」に回帰すべきという主張がされていますが、参院選で一度は参政党などの支持に移った「新自由主義右翼」や「岩盤保守」の票が自民党に戻ってくることは本当にありうるのか、とても気になりましたね。たしかに、保守派とされる高市(早苗)首相であれば、たしかに「新自由主義右翼」を吸収できるかもしれませんが。
HA:大学院2年のHAです。以前に3年ほど自治体に勤務してから進学しており、今年からまた自治体に戻ります。私はそもそも学術的に論じつつ最後に著者が主張するスタイルの文章を読む機会がなく、今回このような文章を読んだこと自体が新鮮で貴重な機会でした。
私が読後に考えたのは、国政の影響を受けて地方行政がどう変わりうるだろうか、ということでした。すでに議論に上がったように、自民党をもともと支持していた層がいま分裂しているわけですよね。ならば、はたして地方政治でも同じような傾向がみられるのでしょうか。実際、参政党が地方の駅前で熱心に活動している様子を見て、地方で着実に地盤を固めしようとする意思を感じました。
また、行政は「アンダークラス」のニーズにこれからどう対応するべきかについても考えさせられました。というのも、行政による援助が必要でも、日々の暮らしで手いっぱいであえて声を上げない方々もいるわけで、彼らの声をいかに拾うかはこれからの地方自治体の現場に求められるはずです。たとえば、一般的に所得が低い人ほど健康にも問題を抱える確率が高いとされますが、これは「経済的に補助すればいい」という単純な対策では済まない話でしょう。
W:大学院2年のWです。僕は昔から政治にとても関心があって、中学生のころから新聞を4紙読んでいました。バカロレア教育を受けていて、「どんな情報にもバイアスがあるからいろいろな視点から物事を見よう」という教えがベースにあったからです。ルーツは日本育ちのバングラデシュ人で、この論考で言うところの「アンダークラス」で、なおかつ外国人でもあるのでピンポイントで心に響く内容でした。
皆さんのお話を聞いていて、日本でもなぜ排外主義的な議論が生まれているかが主な論点の一つだと受け止めています。その理由について、私は「ジャパニーズドリームの終焉」を挙げられると考えています。いまの時代、たとえば塾に入らないと進学校に入れないし、進学校に入れないとトップレベルの大学にいけない。そして、トップレベルの大学に行かないと社会で稼ぎにくい。実際に、東京大学の出身者の世帯年収は、どの大学の卒業生よりも高いといわれています。
つまりは、どのような環境からでも、頑張ればトップレベルの大学に入れて大企業で勤められる、などのかつての夢がなくなったのが現在の日本で、そうした社会的背景が人びとのあいだに鬱憤を溜め、排外主義に向かわせているのではないでしょうか。
ちなみに、国民の政策の理解度についても気になっています。ある政策が社会に与えるインパクトについて、はたしてどれだけの国民が考えているのか。あるいは、参政党の支持が伸びているのならば、好き嫌いではなくその社会的な背景をどのように分析するのか。こうした議論ができなくなっているのは、日本だけでなく世界的な傾向でしょう。最後に個人的な考えを付け加えると、日本人は宗教心が薄いから、排外主義的なものが宗教の代わりに入り込んでしまっているとも言えるのではないでしょうか。
A:アメリカやヨーロッパのポピュリズム政党を支持する人たちは、よく「昔に比べて権利がなくなった」「新しい人たちが来たことで自分たちの権利が失なわれた」と話しています。日本社会でも最近、Xなどで「外国人がなぜ日本の保険制度を使うんだ」などの議論を見かけますが、おそらく背景は似ているでしょう。実際に権利が奪われてるかは別として、少なくない人びとが「自分の権利が損なわれている」という感覚があるのかもしれません。たしかにそうした認識は、排外主義につながりやすいのだろうと思います。
HH:皆さんが触れた日本の「新自由主義右翼」は比較的年収が高いというデータですが、そもそもこれは三大都市圏の調査データとして紹介されているものですよね。都市圏の人たちであれば、そもそも大卒で年収が高い割合は高くなるでしょう。日本全体で調査した場合は、また異なる傾向を見てとれるかもしれないと思いました。
HR:首都圏の大学で学んでいると、確かにメディアで論じられているような排外主義的な発言をする人はいないと言っても過言ではないですね。
HA:以前に自治体に勤めていたときには、定期的に「日本から中国人を追いだせ」という趣旨の手紙が来ました。たとえば、地主の方が「あの土地を中国系の企業が買ったことが許せない」と書いてこられたのです。私が勤めていたのは地方の自治体ですが、たしかに耕作放棄地を中国企業が買って太陽光パネルを設置しているケースがある。当事者間で合意がとれている話なのですが、隣の土地をもつ方からすると感覚的に看過しにくいのでしょう。
W:僕はリベラル的な思想の持主だと自認していますが、それでも国家安全保障の観点から、外国人、とくに永住権を持っていない人に土地を売るのは避けるべきと思っています。
S:排外主義的な考え方って、じつは日本を守るためには重要な感覚なのではないか、とも思うんです。私は海外旅行が好きで、また他国の文化を知るのはとても大事だと考えていますが、一方で「日本が日本であるために大事なもの」が海外から来た人によって奪われかもしれないと感じること自体は全面的に否定されるべきではないでしょう。もちろん、そうした考え方から攻撃的な言動をとるのは絶対に許されませんが。
では、日本にとって何が大事なのかを考えると、それは建物などではなく、考え方や対応など「目に見えないもの」ではないでしょうか。たしかに、海外の人が日本各地にたくさん入ってくることとすれば、2000年以上続いてきた文化や環境を失いうるインパクトかもしれません。
私は鹿児島出身で祖母が農家であるため、そういう人の暮らしや文化を守らなきゃいけないと考えやすいのかもしれません。ただ、さまざまな情報が入り混じる東京に住んでいると、文化を大事にするという考え方が少しずつ薄れていきやすいでしょう。
W:とても重要な着眼点だと思います。外国人問題については環境の変化も見逃せない背景と考えていて、ネットがつながる現在は、外国人はわざわざ日本人とのコミュニティに入らなくても外国人同士で人間関係を築けます。その結果、日本人と外国人のあいだで距離感が生まれているのではないでしょうか。
とくに懸念しているのが、外国人が自分の子どもを日本の学校に入れずに日本文化に触れないケースが増えることです。僕はインターナショナルスクールの出身ですが、そこで日本文化に触れたことで、僕の親も日本について学ぶということが少なくありませんでした。これはあくまで一例ですが、外国人にもそういう機会が大切だと思います。
K: 本論考が掲載された『Voice』2025年10月号のほかの記事(佐伯啓思『現世的かつ現実的な「日本思想」の可能性』)では、西洋が個人主義である一方、日本には「家」を守らなきゃいけないと考える人が一定数いるという趣旨が書かれています。この「守らなきゃいけない」という感覚をもっている人は比較的年収が高い層ではないでしょうか。
たとえばお墓のように、お金がなかったら守るものも余裕もありませんから。少し前の議論につながりますが、排外主義の傾向があるとされる「岩盤保守」と呼ばれる人たちには、共通する傾向かもしれないと思いました。
HR:排外主義について自分の考えをもって、言語化して話す機会って、普段ではなかなかありませんよね。私自身、貴重な機会になりました。皆さん、率直な意見をありがとうございました!
更新:02月05日 00:05