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「1月解散」の可能性は...?「高市長期政権」に向けたグランドデザインと戦略を語る

2025年12月09日 公開

山田宏(参議院議員/自由民主党副幹事長)

山田宏

世界的な変動期に発足した高市政権が果たすべき使命とは何か。長期政権に向けたグランドデザインはあるのか - ――。 同じく松下政経塾で学び、 2025年10月の総裁選をそば近くでともに戦った山田宏副幹事長に話を聞いた。(聞き手:金子将史、構成:編集部)

※本稿は、『Voice』2026年1月号より抜粋・編集した内容をお届けします。インタビュー全文は発売中の『Voice』2026年1月号に掲載しています。

 

「妥協」ではなく「信念」の政治

――長く政治の現場を見てこられた立場から、高市総理の指導者としての器や、ほかの政治家と際立って異なる資質はどこにあると思われますか。

【山田】「妥協の政治」ではなく「信念の政治」を高市総理はめざしている。これまでの日本の政治では往々にして党内外での擦り合わせを経て、言うなれば妥協的に政策が決められてきました。ときにはそれも必要な手続きでしょう。しかし近年の日本政治は、結果としてすべてが積み上げ式になり、トップダウンで思い切った決断が下されることはなかった。変革を起こすには、信念をもって「この道を進もう」と働きかけられるリーダーが必要なのです。

その意味において、いまこそ高市総理の出番だと私は思う。彼女は嫌われたり誤解されたりすることをまったく恐れない。批判の言葉を受け止めたうえでなお、信じる道を進もうとする政治家です。

高市総理がめざす「国家としての日本を取り戻す」仕事をするには、彼女のように批判されることを厭わない人物でなければ務まらないでしょう。それこそが、高市総理の「指導者としての器」であり、これまでの政治家とは異なる資質だと私は思う。各種の補助金を削り、時代から取り残された産業や企業に退場していただくにはそれだけの覚悟が必要で、そのうえでさまざまな支援を充実させることを約束するべきなのです。

――党役員人事については一部では「偏っている」と評されました。一方、閣僚や秘書官の顔ぶれを見るとバランスのとれた人事を行なった印象ですが、どんな思惑だったのでしょう。

【山田】閣僚人事については、ポイントだけは必ず抑えたうえで、あとはバランスをとろうという意図だったでしょう。その「ポイント」とは何か。片山さつき財務大臣と、小野田紀美経済安全保障担当大臣です。高市政権は経済を伸ばすうえで、いますぐに財政収支を合わせるのではなく、先ほども申し上げた三本目の矢を放つことによって成長を促し、その果実によって財政を健全化させようとしています。そうした政策を実行に移せるよう人事にも意を用いたはずです。

それ以外の人事でバランスを意識したのは、「全員野球」をめざしたからでしょう。前政権では残念ながら主流と反主流がわかれたり、旧安倍派が抑制されたりしたことで、党内が随分とギクシャクしていました。そうした空気を一掃したのが今回の人事だったと思います。

 

年明け1月にも解散に打って出るべき

――公明党の連立離脱で政権運営の先行きが不安視されましたが、その後は日本維新の会と連立を組むに至りました。多党時代をどう乗り越えますか。

【山田】あくまでも私個人の考えを申し上げると、なるべく早期に解散に打って出て、衆議院で最低でも与党として過半数の確保をめざすことが先決で、他党との交渉などはそのあとに検討すべき話ではないか。年初に通常国会を召集したら即解散すべきだと考えています。臨時国会で補正予算を通したあと、高市政権が打ち出している政策と維新との連立合意内容について「国民の信を問いたい」と呼びかければ、それは解散を決断するに十分な大義と言えるでしょう。

衆参いずれも過半数割れしている現在の状況で通常国会に臨むのは、日本の政治にとって得策ではありません。ならば選択しうる道は、早期の解散しかない。常識的な判断では、選挙に勝つことはできないのです。もちろん連立相手である維新も納得できるように丁寧に事を進めなければなりませんが、選挙を通じて自民と維新という連立政権への支持を得ることができれば、政治を前に進めやすくなる。

――早期解散を望む声は、党内からも聞こえてきているのでしょうか。

【山田】もちろん、はっきりと口にする議員はいませんよ(笑)。私にしても、繰り返しますがあくまでも「個人的な見解」です。ただし、期待している人間は少なくないのではないか、というのが実感です。

――11月初旬に行なわれたJNNの世論調査では82%が高市政権を支持しています。この高支持率をどのように受け止めていますか。

【山田】あくまでも、「ご祝儀」として認識しています。これだけ高い数字だとあとは下がるしかないわけで、実際のところは五割を維持できれば御の字でしょう。

――とはいえ、一時的だとしても多くの国民が高市政権を支持しているのは事実です。その要因は何だと認識されているのでしょうか。

【山田】あえて申し上げれば、高市政権としてまだ何かの成果を出しているわけではありません。それでもこれだけの支持を得られているのは、高市総理の「姿勢」に共感いただいているからではないでしょうか。自分の考えを前面に出し、型にはまることなく、それを成し遂げようとしている姿に期待していただいているのでしょう。石破(茂)前総理との対照で、高市総理の姿が国民の目にはポジティブに映っているのかもしれません。皮肉な話かもしれませんが、強力なリーダーシップを発揮された安倍元総理の次であれば、また違った受け止められ方だった可能性もあるでしょう。

高市総理にとっては、内閣総理大臣になることが達成すべき目標ではありません。これまでの政治家人生のなかで一所懸命に考え続けてきた政策を、いかにして実現するかで、いまも頭のなかが一杯のはず。就任してからわずかな日数だとしても、どれだけの想いや覚悟で責務を全うしようとしているのか、国民はその温度感を一瞬で鋭く見抜けるはずですよ。

 

「国家100年の計」を立てる気概をもて

――高市総理は山田先生と同じく松下政経塾出身ですが、同塾での学びは、指導者としての高市総理にどのような影響を与えたと思われますか。

【山田】国家の政治を経営的な視点から「国家経営」と捉え、いかにして安い税金で良い公共サービスを提供するかを追求する。それこそが、松下政経塾を設立した松下幸之助の考えの根幹であったと、私としては理解しています。また、松下幸之助とは改革者であると同時に、愛国者でもありました。国家というものが、何か悪いイメージで語られていた戦後教育の風潮とは一線を画していましたし、国家としての日本の継続性を重視されていました。

高市総理が5期生として入塾した1984年当時は、国を愛するということ自体に何となく引け目を感じやすい時代でしたが、それを堂々と述べることができた松下政経塾という空間で学んだことは、高市総理に日本という国への自信を植え付けたのではないでしょうか。そして何よりも、「国家とは何か」を正面から考える時間をもてたことは、自分のなかに確たる国家観や歴史観をつくる契機になったはずです。

それから、松下幸之助が口を酸っぱくするほど繰り返していたことが、日本政治に長期的なビジョンが欠けていることに対する危機感でした。

日本がいかなる理念のもとで存在し、国家はいかにして国民を豊かにして、世界の平和に対して役割を果たすのかというビジョンが欠けている。松下幸之助はその点を強く危惧していたわけで、高市総理におかれては物価高対策など目の前の課題の解決に動かなければいけない一方で、それこそ「国家100年の計」を立てるくらいの気概をもってほしい。

高市総理は尊敬する人物としてマーガレット・サッチャーの名前も挙げていますが、サッチャーはイギリス首相に就任する前の1974年、Centre for Policy Studies(CPS:政策研究センター)というシンクタンクをキース・ジョセフと設立しています。私はこのシンクタンクを訪ねたことがありますが、当時一〇人程度の若い研究者が、じつに一所懸命に世界中の情報や文献を集めて分析していました。そのようにして、サッチャリズムと呼ばれた政治理念と政策を結び付けたわけです。

高市総理も同じように長期的な国家経営の理念や方針を打ち立てる努力をしなければならないし、そのための仕組みをつくらなければいけない。そうした姿勢なくしては、松下政経塾出身の国家リーダーとしては画竜点睛を欠くのではないかと思います。

――サッチャーの名前が出ましたが、経済政策については、積極財政を掲げる高市総理はサッチャーとは逆だと言えませんか。

【山田】個人の自立を重視するという、根幹となる思想は同じではないでしょうか。国民の自由の範囲をなるべく広く確保して、いろいろな仕事に就いたり企業を興したりできるようにする。そうした自由な社会の先に平等がある。ところが昨今では、自由の前に平等が先に叫ばれています。

自由を確保するには、たとえば税制については長期的には国民の負担率を下げていくべきだし、そのために採るべき政策は何かを研究していかなければいけない。いますぐ消費税率を下げる、あるいはゼロにするなどという「思いつき」レベルの議論ではなく、50%近い国民負担率を20年や30年をかけてどのように下げていくか、膨れ上がりすぎて雁字搦めの福祉国家構想をいかに軌道修正するか、などの発想がもっとも大事になるでしょう。

具体的に求められる政策としては、少子高齢化の時代においては、AIやロボットに任せられる仕事は任せ、定年を引き上げるか制度そのものを廃止したうえで、働きたい人は何歳まででも働ける制度を設計するべきだと思うし、NPOや地域での社会活動に携われる環境を整えなければいけません。それが結果として、病気を減らすなど健康寿命を引き上げることにもつながるでしょう。

いずれにせよ、人口が増えておのずから経済が大きくなる時代と同じようにGDPやGNPを考えるべきではなく、私たちは「豊かさ」についてあらためて考えなくてはいけないはずです。

 

「高市長期政権」への条件

――長期的なビジョンについて伺いましたが、短いスパンで考えたとき、来る2026年に先決して解決しなければいけない課題は何でしょうか。

【山田】政権としては、勢いがあるうちに厳しい課題に着手する必要があります。高市政権については、まずはやはり、いわゆる「178万円の壁」の突破に向けてどこまで引き上げられるかでしょう。同時に、不均衡になっている課税をどう改善するか。飴玉ばかりでは国はもちません。これらの政策は速やかに実行しなければいけない。

それと高市総理本人も強調しているように、防衛力の整備についてはさらにスピードアップさせる必要があります。防衛費の増額だけではなくて、軍事・産業の両方で使えるデュアルユース技術を育てることが日本経済にとって大きなメリットにつながるでしょう。それから来年ということで言えば、安保三文書の改定も行なわれるので、主権国家としての防衛力の基盤をつくりつつ、日本経済の大発展をいかにして同時に進めていくか、その仕組みを考えなければいけません。

――高市政権が長期的に成果を出すうえでは、どのような構えや戦略が必要だと考えますか。

【山田】サッチャー政権は11年半、第二次安倍政権は7年8カ月続きましたが、高市政権については10年先を見越したうえで、それを裏付ける30年プランをつくり、自分は総理として何をめざして、いかなる10年後の目標に向けて活動していくかというメッセージを国民に投げかけるべきではないでしょうか。そして、その目標を達成できれば、3年後、5年後、10年後の国民の生活や社会の風景がどう変わっているのか、数値を用いてビジュアルで示すべきです。

なぜ数値が必要なのかと言うと、日本の役所はいろいろなプランはつくりますが、それが本当にうまくいったのかという検証はほとんど行なわない。シンガポールのように仕組みとして政策の効果をチェックしている国もあります。

国民の役に立たない政策をずるずると続けさせないためにも、計画の段階で数値を約束して、それが達成できなかった場合には理由を国民に説明する。そうした仕組みを整えたうえで、努力を積み重ねることが政治への信頼を高めることにつながるし、結果として長期的な政権運営を実現させるはずです。

とはいえ、2年後の2027年9月にはまたフルスペックの総裁選がありますから、短期的にはその節目にみずからの政権がもたらした成果を話せるようにしておかなければ元も子もありません。長期的な国家ビジョンを掲げつつ、短期的な成果についてもスピード感をもって着実にあげていく。その先に、「高市長期政権」が見えてくるはずです。

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