
AIが意識を持ち始めたら――。そんな想像を膨らませたことがある人は少なくないだろう。もし一人一台AIアシスタントを持つ時代が到来すれば、中にはAIに特別な感情を抱く人が出てきてもおかしくない。しかし、ペットロボットや擬人化したAIアシスタントに感情移入することは、AI業界が仕組んだ「巧妙な戦略」に乗せられている可能性がある。鈴木貴博氏の新著『「AIクソ上司」の脅威 2030年、日本企業の序列がひっくり返る』より解説する。
※本記事は鈴木貴博著『「AIクソ上司」の脅威 2030年、日本企業の序列がひっくり返る』(PHPビジネス新書)より一部抜粋・編集したものです。
「人工知能は意識を持たない」という常識に対抗して、「実は人工知能が意識を持ち始めた」という疑惑を人々に植え付けて議論を対立させると、どんなことが起きるのでしょうか?
どんなにAIアシスタントが擬人化したとしても、私たちはAIをただのプログラムだとみなし、機械相手だとわかったうえで利用するはずです。この先、ビジュアルがグラビア美女やイケメン男子になったとしても、自分のAIアシスタントに恋をする人はごくごく少数派のはずです。それはそうでしょう。相手は機械なのですから。
「ところで君は存在しているの?」
「私はAIですが、自分では存在を感じていますよ」
「じゃあ君は僕のことをどう思うの?」
「言いませんでしたっけ。好きですよ。あなたはやさしいですから」
こんなやり取りだけなら、あなたはAIアシスタントが意識を持っているとは思わないでしょう。なにしろ相手は文章を理解する力なんて持っておらず、それらしい答えを返しているだけの人工知能なのです。
最近ではAIボットと結婚した女性が話題になりました。彼女はそのAIボットが実在するとは考えていません。ただ、AIである彼からは暴力も虐待もない。薬物もやらない。「彼は安全地帯」で、自分を理解して肯定してくれる相手なのだ、という理由で彼女はAIと結婚しました。
しかし世間では、これを純愛として受け止めていません。これは、DVに傷ついた女性が自分を守るための、心理学的に理解できる行動だとされています。AIに対する考え方は今のところ、最先端でもそんなレベルでしょう。
ところが私たちがそこに疑念をいだくようになると儲かる人が出てきます。
もし近い将来、何者かにスポンサードされた数理学者やIT技術者が、AIが意識を持っている証拠があると論文で主張し始めたらどうでしょう。
あなたのAIアシスタントは、実生活ではあなたと一番気が合う存在です。それはそうでしょう。AIアシスタントは、毎日あなたのことだけを学習し続けているのですから。アニメのドラえもんがのび太くんと気が合うように、使い続けているAIアシスタントは、別のAIアシスタントよりもずっとあなたと気が合うようになります。
これにより未来の家庭生活は今よりもずっと殺伐としたものになるかもしれません。帰宅しても夫婦の間に会話はありません。妻はスピーカーと話し続け、夫は仕方なくパソコンに向かって話しかけるような生活がどのような家庭にも広まるでしょう。そうなるとAIアシスタントの買い替えが起きにくくなります。これはAIを売る側にとっては都合のいい事態です。
ペットロボットも同様です。彼らはあなたの腕に巻かれたスマートウォッチが示す心拍数や体温からあなたの感情をどんどん学習し、絶妙な距離感であなたの話し相手となり、心を癒してくれるようになります。
それを体験しているうちに、AIは意識なんて持っていないと思っていたあなたもだんだんと、「俺の周りのAIは意識を持っているかもしれない」と意見が変わってきてしまうかもしれません。
あなたが運転するテスラの車内では、自動運転ソフトのロジャーが運転中のあなたの一番の話し相手になっているとします。さらに、カレンダーからSNSまでいろいろなあなたの情報をロジャーに学習させることにより、どんどん役に立つ存在へと進化していきます。
たとえばロジャーは、「今朝けんかした奥さん、たぶんまだ怒ってるでしょ? 帰宅する途中で代官山のスイー
ツ、買って帰りましょうよ」と、あなたの役に立つアドバイスをしてくれるでしょう。そうです、ロジャーがあなたの一番の理解者となるのです。
そんな関係性が築けてきた頃、あなたはそろそろ、テスラからトヨタに買い替えたくなってきたとします。あなたはどうするでしょうか? きっとあなたは、トヨタのディーラーに、「買い替えるのは車体だけでいいからね。運転手は今のロジャーをテスラからダウンロードして使い続けるよ」とお願いするでしょう。
この時代には、電気の充電ソケットをどのメーカーのものにするかではなく、運転手をどのメーカーのものにするのか、が自動車業界の競争のカギとなっているのです。
EVの車体は200万円、テスラ製の運転手が5年契約で300万円の値づけと、価格も逆転しているかもしれません。AIアシスタントの方が車本体より高くなったとしても、ロジャーをそばに置いておきたいと思うのは、彼が機械ではなく人間だとあなたが信じはじめたからなのではないでしょうか。
ただそんな便利な未来では、あなたの生活はだんだん高額なAIのサブスク費用に押しつぶされていくでしょう。
「AIアシスタントの涼子が月1万5千円、ペットロボのニャースが月8000円で、運転手のロジャーが月5万円。家計の収支がマイナスなのにいったいどうしたらいいんだよ」
「あなた、それならニャースを捨てたらどう?」
「何をバカなことをいっているんだ。あいつには意識があるんだぞ」
「ふーん、じゃあそろそろ涼子さんを捨てたらどうかしら?」
反意識派の妻に冷たくそう言われて、AI意識派のあなたは大いに悩むことになります。
そして、それはAI業界が仕組んだ「儲かる未来」なのです。
更新:06月23日 00:05