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「プロスポーツの審判は人間がいい」とは言い切れない AIが主審を務める未来

2025年06月20日 公開

鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)

soccer

昨今の急速なAIの普及により、"仕事消滅論"が現実時を帯びて語られている。その一例として、既にVARが導入されているプロスポーツの審判も、将来的にはAIに取って代わられる仕事の一つになるかもしれない。

本記事では、鈴木貴博氏の新著『「AIクソ上司」の脅威 2030年、日本企業の序列がひっくり返る』より、「AI審判」について触れた一節を紹介する。

※本記事は鈴木貴博著『「AIクソ上司」の脅威 2030年、日本企業の序列がひっくり返る』(PHPビジネス新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

AI審判が生んだ「三笘の1ミリ」

5年から10年前にブームになった仕事消滅予測の中で、当たったものはあるのでしょうか? 実のところ当たったかどうかの判断を下すのは時期尚早かもしれません。なにしろAIは現在進行形でその能力を拡大しているのですから。

その視点を含めて、これまで近未来に消滅する仕事だと指摘されてきた職業が、この先一体どうなっていくのか、現在地を改めて確認してみましょう。

最初はプロスポーツの審判という職業から。

これはいずれ、AIに置き換わる仕事だと予測されています。スポーツの審判の仕事は依然残ってはいますが、この10年間でサッカーのVARやゴールラインテクノロジーのように、AIやITを駆使した判定が世界的に注目されている試合の結果を大きく左右する存在となりました。皆さんにとっては、2022年に開催されたサッカーW杯の「三笘の1ミリ」の判定が印象的な出来事なのではないでしょうか。

まだ完全にAIに置き換わってはいないのですが、野球のメジャーリーグの生中継では投球の球種やコースが瞬時にAI判定され、視聴者がリアルタイムで確認できるようにもなりました。

その結果、ファンが主審のストライク判定に不審を感じるケースが増えてきました。際どい判定ならともかく、ボール2つぐらい外れているのにストライクコールされるといった明らかなミスも出ます。また、プロの球審でも1試合のうち数%の確率でミスジャッジをしているという統計もあります。

特に、近年のメジャーリーグでは打者の手元で動くボールが主流になってきているので、かなり動体視力のいい審判でも判定が難しくなってきています。

これらのことから、審判をAIに代えた方がいいという議論は現在進行系の課題となっています。

プロスポーツの判定の中にはあからさまな不正行為も存在します。スポーツの国際大会などで「中東の笛」と呼ばれているアラブ諸国に有利な判定をするケースや、体操やフィギュアスケートなどの採点の際に浮上する疑惑などはその一例になります。

メジャーリーグの中継を観ていると、大谷翔平選手が判定に不満な態度を見せた途端に、主審がまるで報復かのように際どい判定を繰り返すシーンを見かけます。

これを「審判を敵に回すのは損だ」という言葉で呑み込む人も多いのですが、スポーツを興行として考えたとき、審判を怒らせると判定が変わるというのは、お金を払って観戦している観客にとっては興ざめです。AIが公平な視点でジャッジするのがしかるべき姿なのかもしれません。

 

「審判は人間の方がいい」とは言い切れない理由

しかしこのような話をすると、「機械的なジャッジをするAIよりも、人間の審判の方がゲームメイクという点では優れているはずだ。特に、サッカーのように試合の流れを重視する必要があるスポーツの場合はAIが主審をするのは無理だよ」という意見が生まれます。

サッカーにはマリーシアという、ポルトガル語で「ずる賢さ」を意味する言葉があります。

たとえば審判に見えない角度で相手のユニフォームを引っ張ったり、プレーに直接関係しない選手が意図的に倒れてプレーを中断させたりといったずる賢い行為を指します。

サッカーの決定的な競り合いのシーンをリプレイで観ていると、たいがい好機を外した選手はユニフォームを引っ張られたり肘を当てられたりと、スローでもう一度観てみると邪魔されている様子がはっきりと映っていることが多いものです。

こういったことは映像とAIを組み合わせればすべて摘発できるようになるのですが、それをすべてしてしまうとサッカー自体の面白さがなくなってしまいます。同じファウル行為だとしても、その重大さに応じて審判がファウルを採るかどうかジャッジをしているからこそ、サッカーのゲームは面白いわけです。

だから「審判は人間の方がいい」という意見は現時点ではそのとおりなのですが、実は試合の流れをコントロールするのはAIが得意な領域なのです。なぜなら、AIによるジャッジはソフトウェアプログラムのようにルールだけに沿った機械的なものではなく、人間の審判のジャッジから学習し、応用するものなのです。

わかりやすい例を1つ挙げると、自動運転車の開発の中でなかなか解決できなかった問題として「一時停止線で自動運転車が止まれない」というものがあります。理由は、自動運転のAIは無数の人間のドライバーの運転から運転スキルを学習しているのですが、その学習題材である人間のドライバーの大半が一時停止の標識で止まっていないからです。

これと同じで、AIのサッカー審判はユニフォームを引っ張る選手を摘発するようにプログラミングされているわけではなく、ユニフォームを引っ張る選手に対して人間の審判がどのようにジャッジするのかを学習しているのです。

ですから、アマチュアからプロリーグまでの数あま多たある試合中の審判の様子をAIに学習させていくことで、AIが主審を務める方が人間よりもいいジャッジができるようになる時代がこれから先10年以内に必ず到来すると予測されます。

人間の審判はゼロにはならないのですが、野球のメジャーリーグやサッカーW杯など興行として大きなお金が動くスポーツイベントであればあるほど、審判をAIに置き換えていった方があらゆる意味でいいという未来がやってくるかもしれません。

 

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