
少子化で大学経営は困難な局面を迎えている。私立大学のうち、定員割れの大学は59.2%(2024年度入学者)と半分を超えた。立命館大学客員教授の西山昭彦氏は著書『立命館がすごい』にて、大学経営が極めて難化している状況とその要因を分析している。本稿は、その後の状況を加えて加筆したものである。
※本稿は、西山昭彦著『立命館がすごい』(PHP新書)を一部抜粋・加筆・編集したものです。
大学経営は企業経営より難しい。18歳人口という潜在需要層が大きく減少しているのに、供給(大学)がそれに応じて減少していない。
その結果、日本私立学校振興・共済事業団の調査(全国598校からの回答を収集)によると、2024年度(入学者)の私立大のうち定員割れの大学は59.2%。うち、入学者数が定員の8割未満だった大学は182校(30.4%)だ。すでに私立大の現状は、破綻の連鎖を起こしかねない状態にある。
にもかかわらず、企業と異なり、大学というビジネスモデルの大きな転換はできない。まさに袋小路という言葉が浮かぶ。
少し長いスパンで見てみる。大学の需要は、大学入学年齢人口×進学率で決まる。18歳人口は1990年に201万人、4年生大学への進学率は24.6%だった。2000年には151万人、39.7%になった。2023年は109万人、56.6%だ。
大学入学年齢人口×進学率で計算すると、需要は2000年の59.9万人から2023年の61.7万人へと、1.8万人しか増えていない。
それに対して、大学数はどうなっているのか。2023年の大学数は国立86、公立102、私立622で合計810校である。1990年には507校、2000年では649校だった。2000年から2023年でも、161校も増えている。
つまり過去の傾向として、2000年から2023年で需要が1.8万人しか増えていないのに、大学は161校も増えており、供給過剰は誰の目にも明らかだ。企業経営であればここまで増やすことはなかったと思うが、大学の現実はこれだ。
問題はこの先、少子化の進展でさらに需給が悪化する。文部科学省の予測によると、大学進学者数は2026年をピークに減少し、50年には41万人と、2021年比で3割減る。いまでも定員割れの大学は約6割なのに、平均して3割需要が減ると、約8割が定員割れになりかねない。
わが国の人材育成に大きく貢献してきた大学経営は、これから歴史上最大の危険な時代に入る。
文部科学省も危機を意識し、「2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議」を設置している。
そこに提出された日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、大学法人の経営は2024年度は44.8%が「赤字」(事業活動収支差額比率がマイナス)で、前年度より35法人増加し、252法人に上る。いまでも半分弱が赤字の業界である。
さらに将来の経営状況については、大学法人の回答「やや厳しい」「厳しい」を合わせると66.8%であり、将来不安が増加している。
この資料を見るまでもなく、需要が大きく減れば定員が充足せず、経営できない大学が増えるのは当然のことである。ここから先、定員の減員、大学の募集停止、閉校、合併などが増えざるをえない。該当する大学は早急な対応を求められている。受験生も、進学先の大学の将来を考え、その動向を注視する必要がある。
ところで、この人口減少時代に企業経営はどうなっているだろうか。
上場企業の2025年3月期の決算発表がほぼ出そろい、全体の純利益が前期比で9%増え、4年連続の最高益だ(『日本経済新聞』2025年5月15日。東証プライム上場の3月期企業[金融など含む約1000社]を対象に集計)。
他方、2026年3月期は、拡大してきた企業業績にブレーキがかかる。純利益合計は前期比7%減と、6年ぶりの減益を見込む。米関税や円高進行が重荷となり、自動車や鉄鋼、海運などが振るわない(同2025年5月22日)。
利益は前年9%増え、本年7%減、しかもトランプ関税で各社が低めの予想を出している中での話だ。絶対水準から見れば、依然としてかなりの高レベルを保っているといえる。大学と企業では、同じ少子化の影響を受けているものの、実績は大きな開きがあった。
いま、企業が赤字の大学の経営をするとしたら、どうするだろうか。①需要に合わせて組織のスリム化を図り、赤字を補うか、②既存商品の販売拡大や価値を高め値上げをするか、③新規の需要を開拓し収益の拡大を図るか。つまりコストカット、利益の向上、新規開拓・事業の3つが考えられる。
教育機関でどこまでそれらができるのか、見通しは明るくない。コストカットはある程度可能だが、校舎を持つ設備産業的な面と教員の定員も規制で定められており、限界がある。
既存学部での学生募集の拡大や学費値上げは、それらがそもそも難しいから悩んでいる。新学部設置は文部科学省の認可事項で、自由にできない。大学の新規ビジネス分野参入は、本業が規制産業なので競争力がつきにくく、シーズをベースとした研究開発型の事業以外は容易ではない。つまり大学というビジネスのフレームが前提にあり、規制規則が多く、他大学との差別化できる範囲が限定的という状況である。
企業人なら、そのような厳しい状況下で改革に励むとともに、一部はその業界からの撤退を考えるだろう。それゆえ、企業人は大学教職員がどこまで危機意識を持ち、日々改革をしているかを聞きたいと思うだろう。
実際、努力している人はたくさんいる。いまは順調でも「この先、少子化で、100年後どうしたら経営できるのか」をいつも考えて先手を打っている経営者もいる。
他方で、この問題を考えないようにしている人もそれなりにいる。「自分はもうすぐ定年だから、いい時代に働けたと思う。あとは次の世代に任せる」と無頓着な人もいる。
現実は、つねに倒産の可能性を持つ企業経営と同じように、いや、企業経営以上にビジネスモデルが決まっているので、将来は危うい。いま赤字の大学はすぐに対策を立て、実行に移す必要がある。
黒字の大学も、さらに3割学生が減るので、「この先、時代に対応できなければ、あるいはちょっと道を誤れば、つねに破綻の危険性がある」という前提で、経営に当たることが必要だ。
以前、赤字企業を立て直した社長に話を聞いたとき、「全社員が、会社が破綻し解雇され、給与がなくなる恐れを共通認識に持ち、意識革新をしないと立て直しはできないよ」と言われた。
他方で、リストラを行なった別の企業の人事担当は「人は悪いことは考えないようにする傾向があり、自分は大丈夫と思っていた社員がたくさんいた。しかし、現実はその人たちも対象だった」と言う。
一度、自分の大学が破綻した場合のシミュレーションを教職員全員でやってみると、意識変革のきっかけになるかもしれない。先行事例を調べれば、容易にできる。米国の企業変革事例で、失敗するケースのかなりが初めに危機の共有化ができてなかった、という報告がある。残された時間はもうわずかである。いますぐ動き出したい。
更新:06月01日 00:05