
台湾有事や朝鮮半島有事において、米軍により核兵器が使用される場合、自衛隊はどのような役割を担うことになるのか? 日米が直面する安全保障課題を念頭に、2025-2028年という時間軸のなかで、日米が取り組むべき政策と具体的な行動につながる提言を、書籍『米中戦争を阻止せよ トランプの参謀たちの暗闘』より紹介する。
※本稿は、村野将著『米中戦争を阻止せよ トランプの参謀たちの暗闘』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです

これまで日米の拡大抑止に関する制度枠組みでは、核兵器の使用に関する最終的な決定権は米国大統領一人に任されてきた。
しかしながら、核兵器の使用はそれが敵の核攻撃に対する報復的なものであったとしても、極めて重大な政治的決断であることには変わりない。実際には国防長官や統合参謀本部議長、戦略軍司令官、国務長官、国家安全保障担当大統領補佐官といった自国の主要閣僚・高官に加えて、紛争当事国や紛争当事国以外の同盟国に意見を求めることも考えられる。
この点、2024年12月に策定された「日米政府間の拡大抑止に関するガイドライン」では、同盟調整メカニズム――より具体的には、外交・防衛当局の局長級らで構成される同盟調整グループと、自衛隊と米軍の幹部が参加する共同運用調整所――を通じて、平時から有事までのあらゆる段階で、米国の核使用に関する日本の考え方を伝達できるようなった。これは大きな前進と言えるだろう。
だが、こうした場を活かすには、日本の政治指導者が核兵器の運用に関する正確な情報をもち、その使用をいかに決断するかという思考プロセスをあらかじめ整理しておくことが欠かせない。米国に拡大抑止の信頼性強化を求めることは、いざというときに日本の政治指導者が米国大統領とともに、核兵器の使用に伴う歴史的・道義的責任を共有する覚悟が求められるということでもあるからだ。
2024年7月には、日米2プラス2と並行して、拡大抑止に関する初の閣僚級会合が行なわれたが、たった20分の閣僚会合では、政治指導者に必要な決断力を養うには不十分である。こうしたことからも、現職の総理大臣と主要閣僚は、核兵器の使用という困難な決断を伴う思考実験を定期的に行なっておくことが望ましい。
たとえばオバマ政権では、ロシアによるバルト諸国への侵攻をきっかけとする限定核使用シナリオを題材とした机上演習が行なわれたが、同演習は現職の長官級・次官級スタッフの参加を得て実施されている。
また、NATOの核計画グループ(Nuclear Planning Group:NPG)では、加盟国の国防大臣を代表とする閣僚級グループに加えて、閣僚級グループにおける実質的なアジェンダを議論、支援するスタッフグループや、各国の局長級代表と専門家から構成される上級諮問機関としてのハイレベルグループなど、参加者のレベルと議論のスコープに応じた多層的な協議枠組みが設けられている。
これらの例を参考に、日米拡大抑止協議はよりハイレベルかつ多層的なコミットメントを得る形にアップデートされるべきである。
具体的には、現在年2回実施されている局次長級協議を日米拡大抑止スタッフレベルグループとして残しつつ、閣僚級グループ会合を定期的に開催し、米国の国務・国防長官と日本の外務・防衛大臣が参加する核使用を想定した机上演習を年1回実施する。これにより、自衛隊を含むあらゆる政府組織が米国の核作戦を支援するための政治的承認を与えることが重要である。
さらに、今後日米が直面しうる拡大抑止に関わる中長期的な課題の特定や多様な危機シナリオの作成、然るべき対外発信(戦略的コミュニケーション)のあり方などを支援することを目的として、スタッフレベルグループに日米両国の専門家を加えたトラック1.5の諮問機関=拡大抑止委員会(Extended Deterrence Commission:EDC)を設置することも考えられよう。
日米が直面する可能性のある有事においては、「核の影」の下での通常戦争をいかに抑止し、抑止に失敗した場合には、エスカレーションを管理しながら、いかに望ましい形で戦争を終結させるかという難しい課題に対処することが求められる。
台湾有事や朝鮮半島有事における日米共同作戦計画は、グレーゾーン対応から、日本の反撃能力を使用した共同対処、さらには米国の核使用に至るまでをシームレスに結びつける形で策定される必要がある。この点については、拡大抑止に関するガイドラインと、日米防衛ガイドラインに基づく共同計画策定作業との統合が進んでいくことが期待される。
こうした日米共同作戦計画の策定にあたっては、自衛隊の統合作戦司令部はもとより、在日・在韓米軍、インド太平洋軍、戦略軍などの各統合司令部と緊密に連携した実働・机上演習を繰り返し、実戦上の課題をつねに点検・共有することが求められる。
これまで日米に欠けていたのは、米軍が核作戦を実施する際に、自衛隊がどのような役割・任務を担うのかという議論である。以前から日米間では、北朝鮮のミサイル発射などが行なわれたあとに、米軍の戦略爆撃機と航空自衛隊の戦闘機とが共同飛行訓練を実施することが定例化していた。
しかし、こうした共同訓練は、米軍の戦略爆撃機が核攻撃を行なう際の手続きやターゲティング(標的の選定や攻撃の優先順位付け)の調整を伴っているわけではなく、実際の核作戦計画とは連動していない。
これに対しNATOでは、核兵器の運用を前提とした共同演習「ステッドファスト・ヌーン」の一環として、SNOWCAT(Support of Nuclear Operations With ConventionalAir Tactics)と称する空中戦術訓練が行なわれている。SNOWCATは、核共有の対象国ではないポーランドやチェコなどの戦闘機が周辺空域の安全を確保するといった形で、核共有国の核作戦を支援することを目的としており、結果として核共有していない国々も、共同作戦に必要な情報や計画を一定程度共有できるようになっている。
日米間でも、米軍の戦略爆撃機や戦略原潜が前方展開するタイミングなどを機会として、日本の通常戦力と米国の核戦力を連携させることを想定した議論を具体化するべきである。その一例としては、先に挙げた米軍の戦略爆撃機に対する自衛隊機による空中給油などが考えられよう。
更新:07月13日 00:05