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専門家が、日本は「日米同盟から離脱すべき」と警鐘を鳴らす理由

2024年04月11日 公開

北村淳(軍事社会学者)

日本が永世中立国となるべき理由

軍拡を続ける中国とは対照的に、国内の混乱と軍の「弱体化」が進むアメリカ。覇権国へ盲目的に付き従う同盟国・日本は、アメリカが覇権を再構築するための「捨て石」に利用されるだろう。アメリカで海軍の調査・分析を行い、戦略コンサルタントを務める著者がたどり着いた、日本が生き残る唯一の道とは?

※本稿は、北村淳著『米軍最強という幻想』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

「反米」でも「親米」でも「親中」でもなく

日本では、日米同盟に異を唱えると安易に「反米」のレッテルを貼られがちである。しかしながら、筆者の立場は「反米」でも「親米」でも「親中」でもなく、強いていうならば、ただたんに「日本の国益と日本の軍事的安全」だけを尊重する「日本最優先」ということになるであろう。

すなわち日本の国益のみ尊重し、他の国々に関しては中立、常に日本の国益の観点から考察し、他の国の国益の観点からは考察しない、ということになる。

強力な軍事力を背景にした覇権主義的パクス・アメリカーナが有効な期間中であれば、歴史ある日本という国家や日本民族としての誇りに"本気で"こだわらない限り、「日米同盟強化」との掛け声の下、アメリカの軍事力にすがりつき、アメリカの旗の陰から虎の威を借りて中国やロシアや北朝鮮と対峙し、アメリカの軍事的属国としての惨めな状態に目を向けずに、国際社会に恥を晒しつつ疑似独立国として生きながらえることが可能であった。

しかしながら、状況は激変している。すなわちパクス・アメリカーナは沈没しつつある。

とりわけアメリカの海洋軍事力が弱体化するのと反比例するように、強力な海洋軍事力を構築している中国が軍事的優勢を掌握しつつある東アジア地域においては、アメリカが日本を打ち破って以来手にし続けてきた東アジア地域での軍事的覇権は風前の灯と化しつつあるのだ。

それゆえ筆者は、日本はいまこそ日米同盟を離脱してアメリカの軍事的属国から真の独立国として生まれ変わらねばならない、と主張するのである。

もちろん、アメリカが弱体化してしまったから、アメリカよりも強い新たな覇道国家に尻尾を振って擦り寄り、番犬にしてもらうのではない。

アメリカは、弱体化してしまった自らの軍事力を中国を抑え込むことができるレベルにまで引き上げる間の時間稼ぎとして、日本をはじめとするアメリカの軍事力に依存する国々を防波堤、弾除(よ)け、尖兵として最大限利用しようとしている。

現に、中国脅威論を喧伝してそれらの国々の軍拡を煽り立て、アメリカ製高額兵器の売り込みに余念がない。

このようなアメリカの戦略に組み込まれると、アメリカが中国を封じ込めるのに成功しても、逆に失敗しても、ともに日本の国益は大打撃を受けることは確実だ。そして日本の国際的地位は、アメリカの軍事的属国以下の地位に転落してしまう。

日本が、軍事力が弱体化してしまったアメリカの覇権回復のための捨て石とならないために、今こそ日米同盟を離れて覇道国家アメリカの番犬を辞さねばならないのである。

 

戦場となり、弾除けとして用いられる

もしも、現状を維持して日本がアメリカの軍事的属国状態から離脱しようとせずに、軍事力が弱体化してきたアメリカに盲目的に付き従っていると、アメリカが軍事力を強化して中国を軍事的に封じ込めようとしている期間を通して、日本はアメリカの覇権を再構築するための捨て石として利用されてしまうことは目に見えている。

たとえ、軍事力を再強化したアメリカが中国を打ち破り、東アジア地域での覇権を取り戻したとしても、それまでの間に戦場となる日本は甚大な人的物的損害を被り、国土は荒廃し、国力は枯渇するであろう。

そしてアメリカは第二次大戦後のように衰弱した日本を"支援"して復興させることにより、日本は現在以上にアメリカの属国となるのである。

もし、アメリカの東アジア地域での覇権復活の企てが失敗した場合には、ベトナム戦争やアフガニスタン戦争のように覇権維持のための戦闘から離脱してしまうアメリカは日本を捨て去り、東アジアから撤収してしまえばあとはどうでもよいのだが、当然ながら日本は逃げ去ることはできない。

その間に戦場となり、弾除けとして用いられた日本の損害はさらに悲惨な状況となるのに加えて、アメリカの傀儡・手先として恨みを買うことになった日本は東アジア新秩序においては"ゴミクズ"のような地位にとどまることになってしまう。

いずれにせよ、軍事力が弱体化したアメリカに病理的に従属しているということは、日本が破滅の途を突き進んでいることを意味している。したがって、今一度繰り返すが、今こそ、アメリカへの異常な追従姿勢を捨て去り日米同盟から離脱するタイミングが訪れたのだ。

 

永世中立主義国家としての再出発

アメリカの軍事的属国状態から脱却し、少なくとも(複数の歴史的資料に裏付けられているという意味で)1300年以上もの歴史ある完全なる独立国として再び立ち上がるには、何はともあれ日米同盟から離脱することが肝要である。

たとえば、日米安保条約、日米地位協定、その他の取り決めなどの改定では独立国にはなれない。なぜならば、いつまでもアメリカの軍事力にすがりつき、頼りきる姿勢が政官界や多くのメディア、それに大多数の日本国民の意識に沈着したままになってしまうからだ。

もちろん、軍事的にはアメリカに頼り切っていた片肺飛行の国が自立するのには大いなる困難が伴うが、アメリカに代わる"保護者"や"保護集団"を求めては再び独立は達成できない。

そのため、永世中立主義(軍事的な非同盟主義)を国是とせねばなるまい。日本が伝統ある独立国として復活を遂げる唯一の手段は、日米軍事同盟を離脱して永世中立主義を国是として掲げる国家として再出発することにある。

永世中立主義を貫くには、優秀なる外交能力が必要なのはもちろんであるが、強力な軍事力も必要不可欠となる。

たしかに、覇道国家の番犬という立場を返上した永世中立国・日本はアメリカの捨て石として利用されたり、アメリカの戦争に巻き込まれる恐れがなくなるため、軍事攻撃を被る可能性は格段に減少する。

しかしながら、軍事的保護国もなくいかなる軍事同盟にも加わらない永世中立国といえども、国民も領土も領海も有する独立国家である以上、自衛のための軍事力を保持するのは国家の義務といえよう。

そしてその軍事力は、日本が海洋国家であるゆえに、海洋国家の伝統から導き出された海洋国家防衛原則に立脚した、必要最小限の規模ながらも精強な軍事力でなければならない。

それだけではない。永世中立国として国際社会に認められるには、永世中立国が果たさなければならない義務がある。そしてその中立義務の中には、軍事力を行使してでも果たさねばならないものも少なくない。

したがって、国際社会において名実ともに永世中立国としての地位を確実なものにするためには、中立義務を遵守するための軍事力が必要とされているのである。

 

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